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俺と彼女のミステリな日常  作者: こよる
第三章 名探偵の憂鬱
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第三章―03

「そういうわけで、この封筒の謎の共通点は七夕だったんだよ」

 翌日の放課後、ミステリ研の部室。俺は志ヶ灘とジェンガで勝負しながら、昨日の発見について報告していた。

 真結には、朝の二年二組の教室で既に報告してある。真結は分かりやすく驚くと同時に、「さきちゃんとまた遊びたいなぁ」と遠い目をしていた。小学生の頃は、放課後になると真結が連日ウチに遊びに来ていたのだ。真結が異常に面倒見が良かったため、早季の奴は随分と真結に懐いていた。それはさておき。

 志ヶ灘は積み木の塔からブロックを一つ抜き取ると、「大きな一歩ですね」と言った。

「封筒に入れられた品々は、すべて七夕に関係があるものだった……。そして、あの封筒はせんぱい個人に向けた何らかのメッセージでした。とすると、何か見えてきませんか?」

「俺と、七夕?」

 ジェンガから取れそうなブロックを探して、俺は呟いた。

 よくある話だ。たとえばこんなの。

 俺は五年前の七夕の夜、自転車で七夕祭りの会場へと向かっていた。ところがその途中、俺は道路に飛び出してきた子どもを轢いてしまった。子どもは地面に倒れてぴくりともしない。俺は怖くなって、その場から自転車で逃げ去ってしまった。

 そして五年後。送られてくる無数の品々。ろうそく、紙人形、浴衣……。その意味に気付いたとき、俺は恐怖する。そして、最後の封筒には手紙が一枚だけ。恐る恐るその手紙を手に取ってみると、

 『お前が殺した』

「なーんてことは、ないんだけどなぁ……」

 残念ながら。分かりやすいトラウマもなければ、これといった思い出もない。いや、真結との思い出はあるんだけど、それは毎年恒例のことなので特別とは言い難い。

 そうなると、やっぱり解決できない謎は残るわけで。

「結局、謎が一つ解けても、謎が一つ増えるだけだな……」

 俺はジェンガのタワーからブロックを一つ抜き取った。ちょっとぐらぐらしたものの、タワーはバランスを維持したまま倒れることはない。

「どうして犯人は、七夕に関係のあるものを送りつけているか、ですね」

 今度は志ヶ灘のターン。躊躇いなくパーツを抜き取る様子は見ているこちらが怖いのだが、それでもタワーは崩れない。

 ところで、なんで俺と志ヶ灘がジェンガをやっているかというと、これが真結の誕生日プレゼントだったからだ。この間の日曜日、家に戻ってプレゼントの包装を解いてみたら、ジェンガと一枚のメッセージカードが出てきた。


 きょうくんへ。

 十七歳のお誕生日おめでとうございます。今年のプレゼントは何にしようか迷いましたが、みんなで遊べるパーティーゲームにしてみました。わたしも遊びに行くので、ミステリ研の部室に置いといて下さい。

 みんながジェンガのように、崩れない関係でいられることを祈って。

 まゆ。


 ……待て、ジェンガはいつか崩れるゲームだ。

 というツッコミはさておき。俺と志ヶ灘がジェンガで遊んでいるのは、そういう理由だった。

「せんぱい。もう一度、封筒の謎を整理してみたらどうですか? 謎に進展があったんだし」

 事も無げにパーツを抜き取って志ヶ灘が言う。

 封筒の謎。正体が明らかになった部分を書き換え、さらに番号順に並び替えるとこうなる。


 番号 中身

 2  金銀砂子

 4  ろうそく 

 5  そうめん   

 6  七夕人形

 7  夏の大三角 

 9  浴衣

 10 カササギ


「なんか、あと番号『1』と『3』と『8』が揃えばコンプリート、って感じだな……」

「ゲームじゃないんですから」と志ヶ灘。「コンプリートしたって仕方ないでしょ。それにこれ、暗号だって話だったじゃないですか」

「暗号ねぇ……」

 となると、やっぱり問題になりそうなのは封筒のナンバリングだ。中身に七夕という共通点が見付かったのは良かったが、番号の方が一体どんな意味を持つのかまるで分からない。多分、この番号こそが暗号解読の鍵になるんだろうが……。

 いや、それだけじゃない。

 この封筒の謎の正体が暗号であり、その暗号解読のために全ての手がかりが配置されているとするならば、だ。七夕という共通点も、もちろんこの番号も。そして以前、志ヶ灘が指摘したように封筒がウチと学校に交互に送られてきているという事実も。その全てが、暗号解読に一役買うと見るべきだろう。

「どっちにせよ、現段階じゃこれ以上は分からないけどな」

 結論付け、もうガタの来ているボロボロの塔と対峙する。さぁ、次に抜き取るブロックはどーれだ、っと。

「あのー。こんちはー」

「え?」

 思いがけない場所から声が飛んできて、集中が切れた。用心なくブロックを抜き取ったせいで、塔がバランスを保てなくなり、崩壊する。ジェンガが崩れるがらがらという音と、部室の扉が開くがらがらという音が、ちょうど重なった。

「ミステリ研って、ここでいいんですよねぇ。……って、あれ。志ヶ灘さん?」

 ミステリ研への来訪者――俺の見知らぬ少女が、部屋の中にいる志ヶ灘を見て目を丸くする。

 それと同時に、志ヶ灘が露骨に苦い顔をする気配を、俺は背後に感じ取った。

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