四話『何この人怖い』
最初はキャラ紹介から、ね……
――夕方、啓汰は幼馴染みである琴里和泉と下校していた。
(――キツネはいないかぁ)
そんな最中でも、彼の“キツネレーダー”は常に最大感度で回っている。
今のところ、反応は無しだ。
「――た! け、い、た!」
そんな事を考えていれば、当然周りへの反応は遅れる訳で。
すぱんっと一発、彼は後頭部に一撃綺麗なビンタを受けてつんのめった。
「いっ――てぇな! 何すんだよ和泉!」
叩かれた後頭部を擦りながら、さぞ恨めしそうな眼で和泉を見る。
彼女は普通の人間である。
啓汰の幼馴染みだ。
栗色のツインテールに、すぐに手が出る凶暴性――『如何にも』な幼馴染み像を地で行く少女だ。
「うっさい! 最近点数まるっきりだから、私が勉強教えたげるって言ってたのに……」
――そして、しっかりと啓汰を気遣っているという辺りも地で行っている。
「あー、じゃあ近い内な」
「駄目よ! あんた、そう言って全然やらないもん」
長い間共にすると、やはり性質は見抜かれてしまう。
啓汰の『近い内』は、一ヶ月単位なのだ。
――全く近くない。
そんなやり取りを繰り返しながら、二人は割と大きな公園の前を通る。
その時だ――
『だからよォ、全然ダメだって言ってンだよ!』
――そんな、とんでもなく柄の悪い女の声が聴こえた。
「おおっと、何だか市民のピンチの予感だ! あばよ和泉!」
それを待ち望んでいたかのように、啓汰は得意のロケットダッシュで公園へ逃げ込む。
ただ一人残された和泉は、不貞腐れた様に頬を膨らませてスマートフォンを取り出した。
通話先は、奏だ……
(ふう、なんとか逃げ仰せたぜ。さてさっきの声は――)
遊具の方へ向かっていく啓汰。
すると、また怒鳴り声がする。
「お……?」
良く見てみれば、子供達のガンマン遊びに一人背の高い女が混じっている。
身長は170cm程だろうか……
短めのポニーテールに、黒いタンクトップ。
右足だけホットパンツ並に破りとられたジーンズを履き、右腕には何かを隠すようにアームチューブを身に付けている。
「だァから! 撃たれた奴は起き上がんなよ! 死人だろォが」
「でもお姉ちゃん撃たれても起き上がるじゃん!」
「あたしは上手いこと急所避けてんの」
――相手にしている子供は小学生ほどだろうか。
大人気ないにも程がある言い訳である。
しかし彼女、今は子供達から借りたらしいエアガンを持っているが、左脇には本物の茶色い革製ホルスターが見えている。
(リボルバー……キングコブラか?)
ホルスターから覗く綺麗な木目調グリップに、鏡面のように輝くフレームは非常にレトロな雰囲気を醸している。
「もうお姉ちゃんとは遊ばないもん! 行こー、みんな」
当然といえば当然か、散々文句をつけて自分だけ逃避するのだから煙たがられるのは仕方ない。
彼女はいじけたように地面の石を蹴り飛ばした。
「あ? おい! 何見てンだよ人間!」
遂に彼女は啓汰の視線に気づいたらしく、すらりと長い脚で歩みより、屈んで啓汰を睨み付ける。
切れ長の眼はとてつもない殺気を放っているが、今啓汰の眼は別な方向へ向けられていた。
(こ、この人下着してねぇ……!?)
彼女のプロポーションはハッキリ言ってモデル並みといえる。
大きな胸に、良く引き締まった肢体は口さえ閉じていれば振り向かない男などいないだろう。
そんなプロポーションの彼女は、下着を身に付けていないようだ。
――と、言うよりタンクトップ自体が下着なのだが……
「あ、あー……お姉さんもしかして銃士?」
とにかく、下着の話は不味いと直感した啓汰。
彼は話を逸らそうと、同時に目を逸らしながら訊ねた。
「人にモノ訊く時は、三回回って靴にキスしてプリーズだろ?」
(そんな話、今初めて聞いたっすよ……!)
これでは埒が明かない。
啓汰は必死に話題を探すが、彼は気付いてしまった。
――彼女の腰の左右、そこに設けられたベルト装着式のホルダーには歪に曲がりくねった短剣が刺さっている。
「おい、おい! 大丈夫かよ、人間」
あまりに柄の悪い見た目にフリーズしてしまった啓汰に、流石の彼女も心配そうな目を向ける。
「大丈夫なので、斬らないでください……!」
「ハァ? ……あ、オイ!」
咄嗟に逃げ出した啓汰。
彼女は追っては来ないようだが、とにもかくにも彼女は彼にとって苦手なタイプのようだ。
「あー、逃げちゃったよぉぉぉ……これ、不味いかな? 寝首掻かれたりしないかな……」
まあそんな心配は間違いなく杞憂に終わるだろう。
そんなこと以上に、今彼には地獄が迫っていた。
『母親に依る、付きっきり勉強会』という名の地獄だが、今の彼にそれを知る由はない――
さて、今回の話は割と際どいのでR15タグを今作から付加させていただきました。
十六夜的、銃器解説コーナー
Colt/King Cobra
口径:.357口径
装弾数:6
.357マグナム弾を使用する、アメリカ製マグナムリボルバー。
タンクトップの女性はこれにウッドタイプグリップを組み合わせている。
本銃は基本的にシルバーモデルオンリーであり、鏡のように磨かれたフレームとウッドグリップがレトロで高級な雰囲気を醸し出している。
銃身長は6インチである。