三話『月夜に奏でる足音』
――とある日、深夜
眠っていた奏のスマートフォンが静かに振動する。
「ん……」
そんな微かな音にもしっかりと目を醒ました奏は、寝ぼけ眼を擦りながら通話を始めた。
少しだけ、ブラウスがはだけているのだが奏は気付いていないようだ。
『奏、起きとるか。任務や、任務!』
そんな似非関西弁で、少女というよりも少し大人びた“女性”の声が奏を眠りから完全に醒ました。
「もう、任務って言わないで! お仕事でしょ? 判ってます、場所は?――」
町内に出た奏。
両脚の腿にはM712用大型ホルスターが備えられ、物々しい雰囲気を醸し出す。
「で? 対象は」
ワイヤレスのイヤホンと繋いだスマートフォンに話し掛けながら、奏は町を歩く。
――静かな物だ。
表だけ見れば、平和そのものにも見える。
空には銀色に光輝く満月が見えて、奏の背を月光が照らす。
『もうちょい。一分以内にその通りに合流するハズや』
「月ちゃんは準備できてるの?」
両脚のホルスターからゆっくり、静かに拳銃を抜き出す奏。
革の擦れる音が、この夜の町内に小さく確かに残った。
――こちらはとある屋根の上。
銀色に輝く長い髪に、大きくはだけた和装、インナーにはぴったりとした黒いノースリーブ……
たたでさえあべこべな見た目に、彼女は狼を思わせる銀色の耳と、ふさふさの尻尾を持ち合わせている。
「もちろん、もう捉えとるよ。あと30秒や」
自身と同じ名――月に照らされながら、月は不敵に微笑み、巨大なサプレッサーを備えた狙撃銃“SR-25”を構えてスコープを覗いた。
「なら、もうすぐ……」
奏が差し掛かったのは狭いT字路。
そこから、拳銃を片手に歩く中肉の男が現れる。
「はい、今から貴方を警察に! ね?」
二挺のM712を見るなり、男はシルバーの自動拳銃を余裕げに振り上げた。
一人ならば勝てると思ったのだろう。
だが、それはとんだ計算違いと言うものだ。
一発の銃弾が、男の拳銃を弾き飛ばす。
彼は慌てて撃ってきた敵を探すが、姿が見えない。
「あっちよ、あっち」
奏が指を指した方へ、男は振り向く。
そこには月に照らされた、銀の狼――
彼は、彼女の姿を見ると同時に意識を失ってしまった。
「狙撃手の場所教えるバカがどこにおんねん! アホ! ――まぁ、状況は終了やさかい、お疲れさん」
SR-25のマガジンを取り外して、ユエはライフルのボルトハンドルを勢い良く手前へ引き寄せる。
排出され、宙を舞った未使用弾をぱしっと黒いグローブを身に付けた手で掴んで彼女は屋根から飛び降りた。
「この人は適当に縛って警察に渡そっか。全く、婦女暴行未遂犯なんて……」
ユエと奏は呆れたように、伸びる男に目を向ける。
「ま、しゃあないんちゃうん? とりあえず警察は呼んだし、奏あと頼むわ」
「はいはい、解りました。またね、ユエちゃん」
「ちゃん付けすんな!」
最後に一言毒づいて、ユエは去っていく。
奏は警察にも何度か協力したことがあり、顔も利く。
だがユエは警察嫌いなのだ。
こういうことはしょっちゅうである。
「うぅぅぅぅ寒い! 帰ったらケイのベッドにでも入ろうかしら?」
そんなことを呟いて、くすりと奏は笑う。
銃士の寿命は長い……
それこそ、ファンタジーのように。
だが、彼女達は見た目には歳を取らない。
ある程度で成長が止まるのだ。
個体によっては小さな少女並みだったり、ユエのように若い女のようになったりもする。
奏は、どちらかといえば後者の方だ。
胸はある方だし、背も小さくはない。
だからこそ、尚更である。
朝啓汰が気付いたら、それこそパニックを起こしてしまう。
奏はあまり寝相も良くない……寝起きには毎回ブラウスがはだけている位だ。
これは良くない。主に教育的な意味で――
さて、アドバイスを受けて一話から改善してありますが……
どうなんでしょう
十六夜的、銃器解説
K.A.C./SR-25
口径:7.62mm
装弾数:5+1
アメリカのKnight's Armament Companyが、M16ライフルをサイズアップして作成した狙撃銃。
銃身に余計な負荷を掛けず、歪みを防いで精度低下を防止する『フリーフローティングバレル』等、様々な機構が追加されている。
連射機能は無く、完全に狙撃のみに用途が絞られているのも特徴。
アメリカ陸軍も採用している、実績あるライフルだ。