神様と女の子
幼いころに会った青時くんをずっと忘れていた学生のはらえと、はらえをずっと覚えていた、せまやま山の神様の青時くんが出会った後のお話。
「思い切りぎゅってしたいって思ったけど、本当はそんなことできないんだよね」
「・・・・え?」
今度こそ、聞き逃さないようにしようと思っていたから、聞き逃すべきか、迷った。
「つぶれるくらいに抱きしめたー、とか小説で見る表現だけどさ、本当はそんなことできないよ」
男兄弟のいないわたしには、標準的なその胸の厚さと肩の広さでさえ恐ろしく大きく感じて、彼のそれらは確かにつぶせそうにないなって思った。なんか、肩とかの骨、ごりごり言いそう。い、痛いよね。
「なんていうか、香りだけぎゅってしてる感じ。」
「・・・・え?」
いま、私よりもっと長い腕回されて、ぎゅってされてるんだけどな。
「ぎゅってしたいのってさ、気持ちの方なんだもんなー。て、これ綺麗事?」
「わ、分かんない・・・」
「あのね、腕の筋肉使う割に、『締め付けるなしめるけるなっ!!』て、どこかの俺が言ってる感じ。本気でぎゅってしちゃったらもうなんていうか、ギュじゃなくてバキッて擬音語に進化するよ絶対」
「それ、骨が折れる音?」
「んー、別れる音?あの世とこの世に」
「えっ。・・・じゃあ、ぎゅーって永遠に進化したら駄目なんだね」
「・・・んー。バキッの寸前がつぶれる“くらい”っていうのなら、やっぱりつぶれるくらいっていう表現も正しいかも。けど俺そんな細かいコントロール出来ない・・・。だから、やっぱりできない。あー、・・・ていうことだからさ。はらえ、俺の分までつぶれるくらいぎゅってして」
「んー、わかった」
ぎゅっ
恥ずかしいから小さな指で、
すっと伸びた鼻のてっぺんを、ぎゅっとつまんだ。
「・・・はらえサン、そこじゃないです」
「あ、鼻が赤くなったよ、|青時<せいじ>くんは赤鼻のルドルフだね」
「俺はトナカイじゃないよ。あれ、なんでだろ。はらえはほっぺが赤いね」
「夕日のせいだよ」
見られたくない夕日に染まった頬を、今度こそぎゅってして隠した。
「あ、日没だね」
「青時くんうるさいです」
「夕日のことだよ」
藍色の制服に、頬の夕日が沈む。
「ねえはらえ、藍色は愛を深めるんだってさ」
長い影と小さい影が一つになった長くて少し大きな影は、本当の大きな藍色に、溶けるようにまざっていった。
ずっと前に書いた「はらえの神様」は下げることになってしまったので、あれですが。