「役立たずの影武者」と追放された悪役令嬢ですが、国が滅ぶ前に【ホンモノ聖女】が誰だったのか教えて差し上げます
「――用済みだ、フィーネ。
華やかな聖女である妹の『影』として、泥を啜る日々も今日で終わりだな」
豪華な謁見の間。
父親である国王と、義母の愛を全身に浴びて育った異母妹のマリアが、嘲笑を浮かべて私を見下ろしていた。
マリアの着ている純白の聖衣は、私が血を吐きながら魔力を編み込み、完成させた最高級品だ。
マリアが人々に見せる「慈愛の微笑み」も、称賛される「結界維持」も、すべて地下牢の暗闇で私が支えてきた。
「隣国の皇太子殿下との婚約が決まった今、ホンモノ聖女であるマリアに『気味の悪い姉』など不要なのだよ」
「お姉様、もう私の邪魔をしないでちょうだい」
冷酷な追放通告。
私をただの便利な「身代わり道具」として使い潰してきた家族に、私は薄く笑ってみせた。
「……分かりましたわ。お父様、マリア。
ひとつだけ確認ですが――『身代わり呪印』の解除手続きは、すでにお済みですの?」
「はっ! たかが影武者の呪いごとき、お前がいなくなれば勝手に消えるだろう!」
「そうよ、お姉様。一度張った結界なんて、百年は壊れませんわ。
王国の伝承すら理解できていませんの?」
私は深々と礼をした。
――アホたちは何も分かっていない。
『身代わり呪印』は結界の莫大な負担を、私に肩代わりさせる契約。
私が国との繋がりを断てば、維持していた結界もろとも消えてなくなるのに。
翌朝。
王都は歓喜に包まれるはずだった。
マリア聖女の婚約お披露目パーティーと、隣国の冷徹無比と恐れられる若い皇帝・ゼノヴィス陛下の来訪。
しかし――開宴からわずか1時間後。
「な、なんだこれは……!? ……結界が消えていくぞ!?」
王都を包んでいた魔導結界が、氷が溶けるように消え去った。
同時に、国境付近から「魔獣の群れが侵入した」という悲鳴のような報告が次々と舞い込む。
慌てふためく国王は叫んだ。
「マリア! すぐに結界を再展開しなさい! 『聖女の祈り』で防ぐのだ!」
「え……? や、やり方なんて……私、知らないわよ!?」
「な、何を言っている!? 祈りを捧げて、結界を展開したのではないのか!?」
「……あんな気味の悪い魔導陣の計算なんて、全部フィーネにやらせたのに決まってるじゃない!!」
静まり返る大広間。
隣国の皇帝ゼノヴィス陛下、各国の使節団の前で、マリアは自ら「何もしていないニセモノ聖女だ」と絶叫したのだ。
「な……に……?
では、神業のような魔力制御も、文書の暗号解読も……すべてフィーネが!?」
国王の顔から血の気が引いていく。
追放したばかりの長女。
彼女こそが、国の安全、外交、魔法技術のすべてを一人で支えていた『ホンモノ聖女』だったと思い知らされたのだ。
「……フィーネを今すぐ連れてこい! どこへ行った!!」
「無駄ですよ、国王陛下」
低く、地響きのような声が響いた。
冷徹な皇帝ゼノヴィスが、崩れ落ちる王族たちを見下ろしている。
「我が国へ、フィーネ殿を迎え入れたのだ」
「なっ……!? なぜ影武者に過ぎぬ女の存在を……!?」
「我が国の情報部を甘く見てもらっては困る。
緻密な魔導陣と暗号解読の筆跡……マリア姫のような浅薄な人間に扱える代物でないことなど、とっくに調べがついていた。
昨日、城を追い出された彼女と直々に契約を結ばせてもらった」
ゼノヴィス陛下の手元には、私が渡した一枚の羊皮紙があった。
この国が私に負わせていた莫大な「労働のツケ」と「魔力搾取の証拠」。
「フィーネ殿を長年虐待し、成果を搾取していたことに対し、正式に宣戦布告する。
……結界の消えた丸裸の城で、精々自慢の『聖女』とやらに守ってもらうといい」
帝国飛空艇の甲板。
私は暖かな毛布に包まれ、極上の紅茶を口にしていた。
「長年、暗闇の中でよく耐えてくれた。
これからは私の傍で、類まれなる才能を世界に見せつけてやるといい」
「ええ、陛下。
……本当の『主役』が誰だったのか、あの方たちも身を以て理解されたようですわ」
眼下を見下ろせば、結界を失い、自滅的な混乱と魔獣の襲来に青ざめる故国と、崩れ去っていく王城の無様な姿が見えた。
「――さようなら。私の未来に、皆様の名前が刻まれることは二度とございません」
ご覧いただきありがとうございました!
「影武者だと思って追放したら、国ごと詰んでいた」という、愚かな元家族の自滅劇。
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