祖母との温かなひととき
エリシアが食事を終えて、
広間の暖炉の近くいくと、ふっくらとした白髪の老婦人がソファーに座っているのが見えた。
祖母、マルグリット・フェルンである。
病気がちではあるが、家族の中で最も穏やかで、最も愛深い人。
ただし――礼儀作法には誰よりも厳しい。
それでも、エリシアが幼い頃、夜眠れない日には手を握って添い寝してくれた、唯一無二の存在だった。
前世では、
“投獄されたエリシアのことを案じ続け、病が悪化して亡くなった”
と、後になって知った。
その後悔は、胸の奥でいつまでも燃え続けていた。
「おばあ様……」
エリシアが小さく呼ぶと、祖母はゆっくりと顔を上げた。
以前と変わらぬ、優しい灰色の瞳。
「あぁ、エリシア。今日は……なんだか表情が柔らかいねぇ」
祖母の声を聞いた瞬間、胸の奥が熱く震えた。
涙がこぼれそうになるのを、必死にこらえる。
祖母は微笑み、指先でエリシアに手招きした。
「さあ、おいで。……まあ、その背筋の伸ばし方、とてもきれいになったわ。
何か心境の変化でもあったのかい?」
「い、いえ……その……自然と、です」
「ふふ……良いことよ。姿勢や立ち振る舞いの美しさは、その者の心の在り方、そのものを表すからね。愛していますよ。エリシア。」
そう言いながら祖母は、そっと彼女の頬を両手で包んで、額に慈愛のキスをした。
その温もりに触れた瞬間、エリシアの視界が揺れた。
前世では……最後に触れてもらえなかったのに……
「どうしたの、エリシア? 泣きそうじゃないか」
「……おばあ様が……お元気でいることが……とても嬉しいのです」
祖母は驚いたように瞬きをしたが、すぐに微笑み、エリシアを隣に座らせると背中をやさしく撫でてくれた。
「そうね……ありがたい事に、この瞬間も生かして頂いているわね。
だからこそ、エリシアの笑っている姿を、たくさん見せておくれ。それが私の寿命を延ばすお薬になるのよ。うふふ」
その言葉は、エリシアの過去の痛みをそっと癒すように、静かに響いた。
エリシアは小さく頷いた。
「はい……約束します。私はおばあさまの寿命を延ばすお薬になります。」
祖母は少しだけ目を細め、
「うふふ。かわいいエリシア、あなたは生まれた時から私の大切な孫娘よ。
私がエリシアに望むのは、やりたい事、叶えたい事を楽しみながら喜びをもって人生を歩んでくれることよ。あなたが人生を楽しむことで、それが家族の為に、人々の為になると思うわ。
エリシアなら、きっと大丈夫。できるわよ。」
そう言いながら、祖母はエリシアの手に自分の手をのせて、優しく包み込んだ。
エリシアはその温もりを心に刻みつけるように、そっと目を閉じた。
今度こそ、この人の笑顔を守る。絶対に。
エリシアの胸に、静かな決意が満ち始めていた。




