7歳の朝
――息が、できない。
胸が焼けるように痛く、首にはまだ縄の感触が残っていた。
エリシアは悲鳴を上げながら、勢いよく上体を起こした。
「くっくるしいっ、はっ、はぁ……」
荒い呼吸が静かな部屋に響く。
涙が止まらず、全身が震えていた。
……おかしい。
周囲には、焦げた臭いも、雨の冷たさも、人々の罵声もない。
あるのは、淡い陽光と、よく磨かれた木製の床、そして貴族の子供らしい部屋――
見覚えがある。
「ここ……私の……子どもの頃の部屋……?」
視界の端に映った鏡に、エリシアは息を飲んだ。
映っていたのは、痩せこけた二十歳の死刑囚ではない。
頬にまだ幼さを残し、大きな瞳が涙でぬれている――
7歳の少女、エリシア・フェルン。
な、なんで……?
心臓が激しく脈打つ。
その時、部屋の扉が開いた。
「お嬢様? どうされましたか、こんなに汗をかいて……!」
駆け寄ってきたのは、幼い頃から仕えてくれた侍女のクララ。
前世で彼女は、私を護ろうとして命を落としてしまった人物。
だが今のクララは、心配そうにエリシアの手を取ってくる。
「すぐにお着替えして、お飲み物をお持ちしますね。」
「……クック、ラ、ラ、」
名前を呼ぶ声が、震えた。
クララが生きている、傍にいて、優しい。
その当たり前が胸を強く締めつける。
クララは首をかしげた。
「はい、お嬢様。わたしはここにおりますよ?」
まるで当然のように。
エリシアの視界がにじんだ。
涙が再びこぼれる。
「……良かった……。本当に……」
「お嬢様? あの、どうされたのですか……?」
クララは戸惑いながらも、エリシアを抱きしめ、背中を撫でた。
その温かさに、焼けただれるような痛みが消えていく。
――ああ、本当に。
私は……時間が巻き戻ったんだ。
胸の奥がかすかに震え、静かに決意が芽生える。
もう、同じ過ちはしない。
傲慢にも、我儘にも怠惰にも戻らない。大切な人を失わない。
自分の人生を自分の力で生きる!誰かに邪魔はさせない。
そして――あの理不尽な死を、絶対に繰り返さない。
涙で濡れた顔をぬぐい、エリシアは深く息を吸った。
「クララ。今日から、いろいろと変わりたいの。手伝ってくれる?」
その言葉に、クララは驚いたように目を丸くしたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「うふふ。もちろんです。お嬢様のお望みのままに」
7歳の朝。
ここから、エリシアの新しい人生が始まる。




