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第85話 最後の記録

どれくらい時間が経っただろう。


もう、分からない。


翔太の意識は、現実と幻想の境界を彷徨っている。


時折、正気に戻る瞬間がある。


その時の絶望は、筆舌に尽くしがたい。


自分が置かれた状況を、改めて認識する恐怖。


出口のない地獄にいることを、思い出す瞬間。


でも、すぐにまた配信モードに戻される。


強制的に。


システムが、そう設計されているから。


体育館の穴は、静かに機能し続けている。


月の民たちは、定期的に「食事」に訪れる。


精神エネルギーを摂取し、満足して帰っていく。


それが、この町の生態系。


変化した者と、変化できなかった者。


捕食者と、被食者。


ただし、ここでの「食事」は永遠に続く。


獲物は死なない。


永遠に、苦しみ続ける。


そして、穴の底では...


「見てるか...?」


翔太の声が、響いている。


「俺の配信...」


「誰か...」


「お願い...」


「見て...」


永遠の配信が、続いている。


誰も見ていない配信が。


でも、月の民たちは味わい続ける。


彼の苦悩を、永遠に。




最後のデータログ


ファイル名:eternal_streaming.mp4

録画時間:∞

最終更新:[ERROR - TIME DOES NOT EXIST]

視聴回数:0

評価:なし

コメント:なし

ステータス:永遠に配信中



このファイルは終わりません。 このファイルは永遠に続きます。 藤原翔太は、永遠に配信し続けます。


誰も見ていない配信を。 でも、月の民たちは味わい続ける。 彼の苦悩を、永遠に。


そして、どこかで新たな配信者が 「祢古町」という名前を見つけ カメラを手に、出発の準備をしている。


歴史は、繰り返される。


にゃあ。


【完】

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