第82話 永遠の配信地獄
翔太が落ちた先は、想像を絶する空間だった。
完全な暗闇ではない。
薄ぼんやりとした、青白い光が漂っている。
生物発光のような、不気味な輝き。
そして、壁。
いや、壁というより、生きた組織。
脈動し、蠢き、呼吸している。
まるで、巨大な生物の体内に取り込まれたかのような感覚。
そして、触手。
無数の触手が、翔太に向かって伸びてくる。
半透明で、内部に光る液体が流れている。
「うわああああ!」
触手が触れた瞬間、激痛が走った。
いや、物理的な痛みではない。
もっと根源的な、精神的な痛み。
魂を、直接掴まれたような感覚。
触手は、翔太の身体に巻き付いていく。
腕に、足に、胴体に、首に。
そして、頭部に。
特に、頭部への触手は太く、複雑な構造をしていた。
先端が開き、翔太の頭を包み込む。
「ああああああ!」
絶叫。
何かが、吸い出されていく。
記憶、感情、欲望、恐怖...
すべての精神エネルギーが、少しずつ抽出されていく。
でも、完全には取られない。
ギリギリのところで、残される。
また生成されるように、種火だけは残される。
永遠に搾取し続けるために。
そして、翔太は理解した。
もう、自分は「配信」せずにはいられないことを。
それが、この空間のルール。
この触手に繋がれた者は、永遠に自分の本質を表現し続ける。
そして、それが月の民たちの糧となる。
「や...やあ...みんな...」
勝手に口が動く。
自分の意志とは関係なく。
「ゴースト...ハンターだ...」
懐かしいフレーズ。
何度も何度も繰り返してきた、決まり文句。
でも、今は強制されている。
言わずにはいられない。
「今日も...最高の配信を...」
存在しないカメラに向かって、決めポーズを取る。
誰も見ていない。
でも、止められない。
これが、永遠に続く。




