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第77話 捕獲
ドアが完全に開くと、そこには月の民たちが整然と並んでいた。
すぐには翔太に触れない。
まるで、壊れやすい宝物を扱うかのように、慎重に。
最前列に、悠真が立っていた。
「お疲れ様でした、藤原翔太さん」
その声には、本当の労いが込められていた。
皮肉ではない。
感謝と敬意。
「よく、ここまで抵抗されました」
「それも、あなたの強さの証明です」
翔太は、もう言葉を返す気力もなかった。
ただ、呆然と立ち尽くしている。
糸が切れた操り人形のように。
「強さ...か」
かすれた声で、やっとそれだけ言った。
「ただの意地だよ」
「それも含めて、です」
悠真が優しく答える。
そして、手を挙げる。
その合図で、数人の月の民が前に出た。
皆、かつては人間だった者たち。
優しく、でも確実に翔太を取り囲む。
「さあ、行きましょう」
「特別な場所へ」
翔太は、最後の質問をした。
「どこへ...?」
「体育館です」
悠真の答えは、簡潔だった。
「そこに、あなたのための特別な『スタジオ』があります」




