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第75話 三時間目 - 偽りの救助

翔太の抵抗も、限界に近づいていた。


声は完全に枯れ、全身が小刻みに震えている。


極度の緊張と疲労で、意識も朦朧としてきた。


その時、ドアの向こうが急に静かになった。


そして、新しい声が聞こえてきた。


「こちら、祢古町緊急救助隊です!」


男性の、力強い声。


明らかに、今までとは違う。


翔太の目に、一瞬希望の光が宿った。


「生存者の反応を確認しました!」


「今すぐドアを開けてください!」


本当に、救助隊か?


「こちらは、自衛隊と警察の合同部隊です!」


「昨日から、この地域の異常事態に対応しています!」


声は、本物らしく聞こえる。


無線の音も混じっている。


ザザッという、それらしいノイズ。


「政府も動き出しました!」


「YouTuberの失踪事件を重く見て!」


「特に、20万人登録のゴーストハンターさんの安否を!」


翔太の心が激しく揺れる。


本当かもしれない。


自分は有名配信者だ。


失踪すれば、大きなニュースになる。


政府が動いても、おかしくない。


「証拠を見せてくれ!」


翔太は、掠れた声で要求した。


「了解!今、身分証を...」


ドアの下から、自衛隊の身分証が差し込まれた。


精巧な作り。


細部まで、本物にしか見えない。


写真も、階級も、所属も、全て記載されている。


「他にも生存者がいます!」


「でも、もうすぐ月の民が戻ってきます!」


「急いでください!」


切迫した声。


翔太の手が、閂に伸びる。


開けるべきか。


開けざるべきか。


「お母さんも心配してます!」


その時、決定的な言葉が。


母親の声が聞こえてきた。


「翔太!お母さんよ!」


懐かしい声。


「ニュースで見たの!」


「有名YouTuberが行方不明だって!」


「20万人も登録者がいるなんて、知らなかった!」


「早く出てきて!」


翔太の手が、止まった。


違和感。


母親は、自分がYouTuberをやっていることを知らない。


ましてや、登録者数なんて。


昔から、自分の仕事に無関心だった。


これは...


「...偽物だ」


翔太は、閂から手を離した。


すると、ドアの向こうから、失望の溜息が聞こえた。


たくさんの、溜息。


「ちぇっ...バレちゃった...」


子供の声に変わる。


栗田周平だった。


「もう少しで開けてくれたのに...」


「残念...にゃあ」


母親の声も、猫の鳴き声に変わっていく。


「にゃあ...にゃあ...」


全ては、巧妙な罠だった。


翔太の記憶から情報を読み取り、それらしい嘘を作り上げた。


だが、最後の詰めが甘かった。


母親のことを、完全には把握していなかった。

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