第74話 田中と山田の巧妙な説得
「ゴーストハンターさん...」
今度は、田中の声が聞こえてきた。
完全に猫化した今でも、最後の慈悲として人間の言葉を使っている。
「僕、あなたの大ファンでした」
懐かしさと、切なさが入り混じった声。
「初期の頃から、ずっと見てました」
「廃病院の配信で、あなたを知って」
「それから毎日、楽しみにしてて」
田中の声には、本物の感情が込められていた。
「今も、ある意味ではファンです」
「違う形だけど」
「だから、お願いします」
声が、少し震える。
「特別な場所に行きましょう」
「永遠に配信できる場所へ」
「僕たちが、永遠に見ますから」
田中の声が、次第に変化していく。
人間の言葉から、猫の鳴き声へ。
「最高じゃないですか...にゃあ」
「夢が叶う...にゃあ」
「永遠の配信者...にゃああ」
次は、山田の番だった。
「おい、ゴースト」
かつてのアンチ。
皮肉屋だった山田。
その口調は変わらない。
「俺は、お前が嫌いだった」
率直な告白。
「数字ばっか気にして」
「中身のない配信して」
「馬鹿な視聴者を騙して」
翔太の心に、棘が刺さる。
「でも、今は感謝してる」
山田の声に、なぜか感謝が込められている。
「お前のおかげで、ここに来れた」
「この幸せを知れた」
「個人でいることの苦しみから、解放された」
「だから、恩返しさせてくれ」
山田の声も、優しくなる。
「お前も特別な存在になれる」
「永遠の配信者として」
「ある意味、夢が叶うじゃねえか」




