第70話 閂一本の攻防
2024年3月26日、午後2時。
広場から始まった壮絶な追跡劇の末、翔太は市立祢古小学校の放送室に逃げ込んでいた。
重い鉄製のドアを閉め、内側から閂をかける。
ガチャリ。
金属が噛み合う音が、静寂を切り裂いた。この音が、翔太の最後の抵抗の始まりを告げる狼煙となった。
「はあ...はあ...はあ...」
全身が限界を訴えている。シャツは汗と泥で張り付き、ズボンは何カ所も破れている。爪で引っ掻かれた跡が、ヒリヒリと痛む。足は棍棒のように重く、膝は笑っている。
広場から逃げ出してから、どれくらい走っただろうか。5分?10分?体感では1時間にも感じられた。
廊下の向こうから、無数の気配が伝わってくる。
ドアの下の隙間から、影が見える。
たくさんの影。
大きさも形も様々な影が、ドアの前でうごめいている。
そして...
ドンッ!
予想通り、ドアに衝撃が加わった。
だが、頑丈な鉄扉はびくともしない。
もう一度。
ドンッ!ドンッ!
リズミカルな打撃。
まるで、ドアの強度を確かめているかのような、計算された攻撃。
「来いよ!」
翔太は、虚勢を張って叫んだ。
「全部撮ってやる!お前らの正体を!」
返答は、沈黙。
不気味なまでの、完全な静寂。
そして...




