第68話 小学校への逃走
ついに、翔太は市立祢古小学校に辿り着いた。
もう、体力は限界だった。
足がもつれ、視界が霞む。
それでも、最後の力を振り絞って校門を駆け抜ける。
校舎へと飛び込む。
廊下を走りながら、必死に隠れ場所を探す。
そして、放送室を見つけた。
重い鉄扉。
内側から施錠できる構造。
ここなら、少しは時間を稼げるかもしれない。
翔太は、放送室に飛び込んだ。
ドアを閉め、鍵をかける。
ガチャリ。
金属音が、最後の抵抗の始まりを告げた。
ドアの向こうから、追跡者たちの気配が伝わってくる。
廊下を埋め尽くす、無数の足音。
そして、ドアの前で止まる。
だが、すぐには攻撃してこない。
翔太は、床に崩れ落ちた。
全身が悲鳴を上げている。
筋肉が痙攣し、肺が焼けるように痛い。
でも、生きている。
まだ、生きている。
「はあ...はあ...」
荒い呼吸が、徐々に落ち着いていく。
そして、現実が押し寄せてくる。
ここは、袋小路。
出口は、このドア一つ。
つまり、時間稼ぎにしかならない。
でも、それでもよかった。
最後まで、抵抗する。
それが、自分の選んだ道。
放送機材を見回す。
古いミキサー、マイク、レコーダー。
もう、使われなくなって久しい機材たち。
ふと、思いつく。
もしかしたら、まだ使えるかもしれない。
最後の、メッセージを残せるかもしれない。
震える手で、機材の電源を入れてみる。
奇跡的に、いくつかは動いた。
「...よし」
翔太は、マイクの前に座った。
最後の、放送を始めるために。




