第62話 広場での審判
行進が止まったのは、町の中央広場だった。
かつては、祭りや集会が行われていたであろう場所。
広場の中央には、古い石造りの台座がある。
高さ1メートルほどの、四角い石の塊。
上面は平らで、まるで祭壇のような形状。
そして、その表面には...
翔太は、吐き気を覚えた。
黒い染み。
幾重にも層を成している、古い血の跡。
これまでの「餌」たちの、最期の場所。
台座の周りには、既に円形に猫たちが座り始めていた。
内側から順に。
完全に変化した者。 変化途中の者。 元々の猫たち。
美しいまでに整然とした、同心円状の配置。
まるで、古代の儀式のような荘厳さ。
そして、全ての視線が翔太に注がれる。
期待と哀れみが入り混じった、複雑な眼差し。
群衆の中から、悠真が前に出てきた。
完全に変化した彼の姿は、もはや神々しささえ感じさせる。
銀色の毛並みは朝日を受けて輝き、しなやかな四肢は優雅に地面を踏む。
だが、その瞳には、深い悲しみが宿っていた。
「藤原翔太さん」
その声は、もはや一個体のものではない。
無数の声が重なり合い、ハーモニーを奏でるような響き。
集合意識の代弁者としての声。
「あなたは、72時間経っても変化しませんでした」
「これは、極めて稀なケースです」
悠真の声には、本当の悲しみが込められていた。
人間だった頃の感情が、まだ残っているのだろう。
「私たちは、あなたに仲間になってほしかった」
「この幸福を分かち合いたかった」
「でも...」
翔太は、震えながら問いかけた。
「なぜ...俺だけ...」
「あなたは、強すぎるんです」
悠真の答えは、残酷なまでに明快だった。
「『藤原翔太』という個体への執着が」
「『ゴーストハンター』という仮面への依存が」
「20万人の登録者という幻想への固執が」
「それが、変化を拒んでいる」
「でも、それは俺の...」
「そう。それがあなたのすべて」
悠真は、深い溜息をついた。
集合意識の中でも、溜息をつくことができるのだろうか。
「だから、変われない」
「そして...」
「変われない者は、別の形で貢献していただきます」




