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第59話 変化を遂げた者たちの準備
住民たちは、血の混じった水を玄関先に置いていく。
そして、その周りに奇妙な模様を描き始めた。
小石を並べて作る、幾何学的なパターン。
円の中に三角形。三角形の中に、また円。
そして、その中心に、縦長の楕円。
猫の瞳孔を模した図形。
通りの向こうから、見覚えのある人影たちが現れた。
@urban_explore_jp、@lost_places_hunter、@dark_explorer...
失踪した配信者たちも、住民と全く同じ動作を繰り返している。
もはや、個性は欠片も残っていない。
完璧に統制された、集団の一部。
彼らの表情は、一様に穏やかで期待に満ちていた。
まるで、長い間待ち望んでいた祭りの日が、ついに訪れたかのように。
翔太は理解した。
これは、歓迎の儀式ではない。
「準備」だ。
特別な儀式のための、入念な準備。
そして、その儀式の主役は...
「俺か...」
掠れた声が、喉から漏れた。




