第46話 絶望の夜へ
翔太は、廃墟の民家を飛び出し、旅館へ逃げ帰った。
もう、どこにも安全な場所はない。
部屋に籠もり、ドアに家具でバリケードを作る。
無意味だと分かっていても、他にできることがない。
窓の外を見る。
月が、不気味なほど大きく見える。
そして、町中から聞こえてくる鳴き声。
『にゃあ』 『にゃあ』 『にゃあ』
数十、いや数百の声。
カウントダウンが始まっている。
「くそ...くそ...!」
明日、3月26日。
収穫の日。
翔太は、震えながらカメラを構えた。
最後まで、記録する。
それが、配信者としての意地。
「俺は、藤原翔太だ」
レンズに向かって、宣言する。
「ゴーストハンターだ」
「最後まで、人間だ」
その時、どこからか鈴の音が聞こえてきた。
チリン...チリン...
今までより、強く、深く響く音。まるで、誰かが必死に祈っているような。
一瞬、恐怖が和らぐ。心が、わずかに軽くなる。
「なんだ...?」
まるで、見知らぬ誰かが、自分のために祈ってくれているような。ありえない。こんな地獄で、他人のために祈る者などいるはずが。
でも、確かに感じる。温かい何かが、自分に向けられている。
「はは...」
乾いた笑いが漏れる。
「ありがとよ...誰だか知らないけど...」
でも、もう遅い。鈴の音も、祈りも、自分には届かない。
なぜなら、藤原翔太は、最後まで「藤原翔太」でいることを選んだから。ゴーストハンターという仮面を、手放せなかったから。
窓ガラスに、何かがぶつかる。ヒビが入る。
時間切れだ。




