表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/91

第42話 観客たちの夜

2024年3月25日、午後7時。


黄昏は静かに終わりを告げ、祢古町に本格的な夜の帳が下りた。山間の谷底という地形も相まって、闇の訪れは平地よりも早く、そして深い。


翔太は、商店街から森へと続く道の入り口で立ち尽くしていた。


昼間に見つけた車への道。だが、そこには既に「彼ら」がいた。


森の縁に立つ、何十という黒い人影。


いや、人影というのは正確ではない。人と猫の中間、あるいはそれ以上に変化を遂げた存在たち。ある者は完全に四つ足で、ある者は中腰の奇妙な姿勢で、またある者は人間のように直立している。


だが、共通しているのは、その視線だった。


全員が、翔太を見つめている。


瞬きもせず、微動だにせず、ただじっと。


その視線に敵意はない。攻撃的な気配もない。


あるのは、深い憐憫と、微かな期待。


翔太には、彼らの無言のメッセージが痛いほど理解できた。


『変われない人』 『まだ苦しんでいる人』 『もうすぐ楽になれる人』 『特別な役目を持つ人』


彼らは動かない。


道を塞いでいるだけ。


まるで、「まだその時ではない」と告げているかのように。


翔太は、一歩後退した。


その動きに合わせて、「彼ら」の中から小さなざわめきが起こる。期待が高まったような、微かな興奮。


だが、それでも動かない。


ただ、見ている。


観客のように。


舞台上の役者の、最後の演技を見守る観客のように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ