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第27話 視聴者たちの変化の喜び

その頃、東京では...


田中の部屋


ワンルームアパートの一室で、田中は鏡の前に立っていた。


全身を映す姿見に、自分の変化していく姿が映っている。


瞳孔が、日に日に縦長になっていく。 耳の位置が、少しずつ上に移動している。 全身に、薄っすらと産毛が生え始めている。


「すごい...本当に変わってる...」


恐怖はない。


むしろ、ワクワクしている。


まるで、蛹から蝶に変わる瞬間を体験しているかのような高揚感。


スマートフォンを手に取り、自撮りをする。


そして、Twitterに投稿。


『変化3日目!見て、この瞳孔!』

『もうすぐ言葉も話せなくなるかも』

『でも、それでいい』

『みんなと同じになれるなら』

『#祢古町 #幸せ』


投稿した瞬間、大量の「いいね」がつく。


同じように変化している者たちからの共感。


『わかる!』 『私も始まった!』 『にゃあ』 『にゃあにゃあ』


コメントも、次第に人間の言葉から、猫の鳴き声に変わっていく。


でも、それでいい。


言葉なんて、必要ない。


感情が、直接伝わるから。


山田の葛藤と受容


別のアパートでは、山田が苦悩していた。


「くそ...なんで俺は...」


四つん這いの姿勢が、自然に感じる。 二本足で立っているのが、逆に苦痛。


「こんなの...おかしいだろ...」


でも、身体は正直だ。


四つ足になった瞬間、全身から力みが抜ける。 これが、本来の姿なのだと、細胞レベルで理解する。


「でも...俺は人間だ...」


最後の抵抗。


ノートパソコンを開き、日記を書く。


人間として、最後の記録を残そうと。


『もう無理だ』

『でも、不思議と恐怖はない』

『むしろ、解放感がある』

『個人であることに疲れた』

『名前も、批判も、競争も、もういらない』

『ただ、群れの一部になりたい』


キーボードを打つ指が、次第に動かなくなる。


指の形が、変わり始めている。


爪が伸び、肉球ができ始めている。


もう、人間の道具は使えない。


でも、それでいい。


道具なんて、必要ない。


ただ、在ればいい。


山田は、最後にEnterキーを押した。


そして、ノートパソコンを閉じる。


もう、二度と開くことはないだろう。


窓から、外を見る。


月が、美しく輝いている。


あの月の下に、仲間たちが待っている。


山田は、窓を開けた。


そして、しなやかな動きで、外へと飛び出していった。


四つ足で、屋根を駆け抜けていく。


目指すは、祢古町。


全ての始まりの地へ。

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