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第22話 陽光の下の異界

2024年3月25日、午前7時。


翔太は、旅館の玄関前で立ち尽くしていた。


空に浮かんでいた巨大な目は、いつの間にか消えていた。代わりに、普通の太陽が東の山の稜線から顔を覗かせている。紫がかっていた空も、いつもの青空に戻っていた。


まるで、さっきまでの光景が幻覚だったかのように。


だが、翔太の全身に刻まれた恐怖は、それが現実だったことを物語っている。冷や汗でびっしょりと濡れたシャツが、朝の冷気に触れて不快な感触を生む。


「彼ら」も、いつの間にか姿を消していた。


dark_explorerも、他の半人半猫の存在たちも、朝日と共に霧のように消え去った。


残されたのは、静まり返った廃墟の町と、一人の人間だけ。


「...夢だったのか?」


翔太は、かすれた声で呟いた。


いや、夢ではない。手の震えが、心臓の高鳴りが、全てが現実だったことを証明している。


だが、なぜ「彼ら」は消えたのか。


朝日を恐れて?それとも、別の理由が?


考えても答えは出ない。


翔太は、深呼吸をして気持ちを落ち着けようとした。冷たい朝の空気が肺を満たす。少しずつ、理性が戻ってくる。


「...はっ、ざまあみやがれ」


強がりの言葉が、自然と口をついて出た。


「夜しか活動できねえ、ただの地縛霊みてえなもんかよ」


自分に言い聞かせるように、わざと大きな声で言う。


静寂に、自分の声だけが響く。


恐怖に支配されていた心に、わずかな余裕が生まれる。配信者としての虚勢が、また頭をもたげてくる。


そうだ、昼間なら大丈夫だ。


昨日の探索でも、昼間は比較的安全だった。視線は感じたが、直接的な危害は加えられなかった。


夜さえ乗り切れば、なんとかなる。


「よし、お前ら!調査再開だ!」


翔太は、首から下げたα6400に向かって宣言した。


電源を入れ、録画を開始する。


「昨夜の恐怖は、しょせん序章に過ぎなかったってことを、俺が証明してやる!」


カメラの前では、いつもの傲岸不遜な「ゴーストハンター」を演じる。


それが、恐怖から自分を守る唯一の鎧だった。

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