第21話 夜明け前の審判
「彼ら」は、静かに翔太を取り囲んだ。
敵意はない。むしろ、歓迎しているかのような雰囲気さえある。
その中から、一体が前に出てきた。
他の者よりも、人間に近い姿をしている。だが、瞳孔は縦長で、耳は猫のように上を向いている。
そして、翔太は気づいた。
見覚えのある顔立ち。どこかで見た写真と同じ...
「@dark_explorer...?」
1週間前に失踪したYouTuber。オカルト検証で有名だった配信者。
彼が、今、翔太の前に立っている。
「やあ...ゴーストハンター...」
声は、かすれているが、確かに人間の言葉だった。
「ついに...来てくれたんだね...」
その表情は、複雑だった。
喜びと、悲しみと、そして諦めが入り混じっている。
「君も...選ばれたんだ...」
「選ばれた?何に?」
翔太は、震え声で問い返した。
「変化...するか...」
dark_explorerは、ゆっくりと言葉を続けた。
「それとも...」
言葉が、途切れる。
だが、翔太には、続きが分かった。
変化するか、それとも...別の運命を辿るか。
「俺は...人間だ...」
翔太は、必死に主張した。
「変化なんて...するもんか...」
その言葉に、「彼ら」の表情が曇った。
憐れみと、悲しみの色が濃くなる。
そして、空の巨大な目が、ゆっくりと瞬きをした。
審判が、下されようとしている。
人間として死ぬか。
猫として生きるか。
その選択の時が、ついに訪れた。
だが、翔太にはもう分かっていた。
これは、選択ではない。
運命は、既に決まっている。
なぜなら、自分は「藤原翔太」であることに、執着しすぎているから。
「ゴーストハンター」という仮面を、手放せないから。
20万人の登録者という幻想に、しがみついているから。
だから、変化できない。
だから...
朝日は、昇らなかった。
代わりに、紫の空が、さらに深い色に染まっていく。
そして、新たな一日が始まる。
祢古町の、異常な一日が。




