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退屈な田舎を出て俺達は成り上がる!

作者: Xsara

トーマスとアイクは小さな村で育った幼馴染みで、共に自然の中で生きる術を学びました。トーマスは父親から狩りの技術と追跡術を学び、弓の扱いに長けていました。アイクは鍛え上げられた体と父親譲りの斧さばきで木を倒し、薪を割る力を持っていましたが、その生活に満足することはなく、二人とも家業に囚われずにもっと広い世界で自分たちの力を試したいと常に夢見ていました。


ある日、村の市場で旅人が都市の話をしているのを聞いた二人は、冒険者ギルドという組織がある都市の話に心を奪われました。冒険者ギルドでは、誰でも登録し、自分の力を試すことができ、成功すれば富や名声が得られるという噂は、二人にとって輝かしい未来への扉に見えました。


二人はその場で決意を固め、少ない荷物をまとめて家族に別れを告げました。村の外れにある古びた石橋を渡るとき、母親が涙ながらにトーマスに「気をつけるのよ」と言った言葉が心に響きました。アイクも父親から「戻ってくる時は立派な男になれ」と背中を叩かれ、その重みを感じました。


旅は決して楽ではありませんでした。道中、山賊に襲われそうになったり、狼の遠吠えに震えたりしましたが、二人は持ち前の勇気と知恵で困難を乗り越えていきました。トーマスは弓を手に、アイクは斧を肩に担いで、互いに背を預け合いながら進みます。


そして数日後、ついに都市の高い城壁が見えてきました。太陽の光に照らされた巨大な門の向こう側には、彼らが思い描いていた新たな人生の舞台が広がっていました。都市は活気に溢れ、行き交う人々の喧騒と香辛料の香りが漂い、冒険者たちが酒場で冒険譚を語り合う光景が広がっています。


「ここから始まるんだな、俺たちの物語は」とアイクが目を輝かせて言うと、トーマスも同じく胸を高鳴らせながら頷きました。二人は意を決して冒険者ギルドの門をくぐり、新たな世界への第一歩を踏み出しました。



一年が経ち、トーマスとアイクは厳しい現実に直面していました。二人は都市の冒険者ギルドに所属し、毎日のように仕事を請け負っていましたが、そのほとんどが下級の仕事ばかりで、ゴブリンの討伐や簡単な護衛任務に過ぎませんでした。村では自分たちが抜きん出た存在だと思っていた二人も、この広大な都市では数ある駆け出し冒険者の一人に過ぎなかったのです。


初めは意気揚々と冒険に出かけていた二人も、日が経つにつれてその熱意は冷めていきました。ゴブリン討伐では命の危険にさらされることもあり、報酬もわずかでした。生活は厳しく、二人はその日暮らしのような生活を送るしかありませんでした。アイクは酒場で疲れた表情を浮かべ、トーマスは地図を見つめながら無言で考え込むことが増えていました。


そんなある日、ギルドの掲示板で新しい冒険者の話題が持ちきりになりました。地方からやってきたばかりの16歳の少年、名をレオンと言う彼は、ギルドに入って数か月で中級冒険者の資格を手にしていました。トーマスとアイクは酒場の片隅で彼が語る冒険譚を耳にしました。レオンは神速の剣技と鋭い洞察力を持ち、わずかなミスも見逃さず、戦闘での判断力も抜群だと評判でした。


トーマスは悔しさに拳を握りしめました。「どうしてあいつはこんなにも早く成り上がれたんだ?」と自分に問いかけます。アイクもまた苦々しい表情で酒をあおり、「才能か…俺たちにはそんなもの、初めからなかったのかもしれないな」と呟きました。


二人は自分たちの努力が報われない現実に絶望しました。日々、鍛錬と経験を積んでいるにもかかわらず、結果がついてこない。才能の違いを目の当たりにし、何度も自問しました。「このままでいいのか?」「俺たちは何のために冒険者になったんだ?」


それでも、心のどこかで諦めきれない気持ちが二人を支えていました。





アイクは酒場の片隅で静かに酒杯を置き、ふと遠くを見つめました。騒がしい笑い声や冒険者たちの談笑が響く中、彼の耳に残るのは自分の父親の言葉だけでした。


「戻ってくる時は立派な男になれ」――それはアイクが村を発つ前夜、木こりとして生きてきた父親が口にした言葉でした。大きくて力強い手で肩を掴み、真っ直ぐに見据えた父の顔が脳裏に浮かびます。あの言葉には、自分たちのように一生村で暮らすのではなく、外の世界で何かを成し遂げてほしいという父の願いが込められていました。


しかし今の自分はどうだ?一年が過ぎても最下級の冒険者で、日々の生活に追われるだけ。ゴブリンを倒すのにすら苦戦し、満足に貯金もない。周囲からも、かつて抱いていた憧れの目は消え失せ、ただ「普通の駆け出し」として見られている。


アイクは歯嚙みし、悔しさで拳を震わせました。彼はすぐそばで眠るようにうつむいているトーマスを見つめ、再び目を逸らします。村を出るときは、自分たちがどれだけ強い男になって帰るのかを語り合ったこともありました。しかし、現実はその夢を冷たく打ち砕いていたのです。


「父さん……俺は本当に立派な男になれるのか?」アイクは胸中で問いかけます。父の言葉を裏切るようなことはしたくない。そう強く思う一方で、今の自分ではその誓いに近づけている実感がありませんでした。




それから一年が経過しましたが、状況は一向に好転しませんでした。アイクとトーマスは何度も挑戦を重ね、少しでも収入を増やそうと低難度の依頼を請け負い続けましたが、力や経験の不足から大きな進展は得られませんでした。酒場では彼らを見かける者たちも「いつもの駆け出し冒険者」として通り過ぎるだけで、誰も期待も関心も示しません。


日々が単調で、夢と現実の間に横たわる深い溝を痛感する中、アイクとトーマスの心は次第に疲弊していきました。自分たちの限界を認めざるを得ないと気づいたある夜、アイクは重い口を開きました。


「トーマス、もう……俺たちには無理なのかもしれない。」


トーマスはしばらく黙っていたが、ついにため息をつき、肩をすくめました。「そうかもな……アイク。俺たち、無理をしすぎたのかもしれない。」


二人の間に漂う静寂は、これまでのすべてを物語っていました。希望や夢が次第に失われ、現実に押しつぶされていたのです。そして、彼らは最後の決断をしました。


「帰ろうか、アイク。」


「……ああ、帰ろう。」


アイクは、自分の心が重く沈むのを感じながらうなずきました。父の「立派な男になれ」という言葉が頭をよぎり、胸が痛みましたが、彼はもうその言葉に応える自信を失っていました。


翌朝、彼らは装備をまとめ、冒険者ギルドに一度足を運びました。最後の挨拶を済ませ、彼らはかつての期待と違う形で故郷への道を歩き始めたのです。空は曇っていましたが、心の中の重たい影よりは明るく感じました。





帰路についたアイクとトーマスは、草原や森を抜け、昔見慣れた景色が広がる道を歩いていきました。懐かしい風景が二人の胸にいろいろな感情を呼び起こします。無邪気に将来を夢見ていた少年時代、父親や村の人々からかけられた温かな声、そして初めて冒険者の道を選ぶときの誓い。全てが重なり、足取りは重くなります。


夕暮れ時、道の脇で休憩をとった二人は、静寂の中でかすかに草木のざわめきを聞いていました。トーマスがポケットからこぼれ落ちた小さなペンダントを手に取り、その金属が夕日の光を受けて輝きました。


「トーマス、それは?」アイクが尋ねます。


「母さんの形見さ。俺が冒険者になるって言ったとき、これを持って行けって言われたんだ」トーマスは小さく笑い、でもその笑顔には切なさが含まれていました。「母さん、俺がどんなに失敗しても、ここに戻ってくればいいって信じてくれてたんだろうな。」


アイクはその言葉を聞きながら、自分の父の言葉を思い出しました。「戻ってくる時は立派な男になれ」。その一言に込められた父の期待と愛情を思い、自分が何を得たのか、何を失ったのかを考えます。冒険者としての成功を手にすることはできなかったけれど、一緒に努力を重ねた時間、トーマスとの友情、そして自分の限界を知る経験。全てが何かしらの意味を持つはずだ、と。


「俺たち、何も得られなかったわけじゃないんだよな」とアイクが静かに言うと、トーマスも小さくうなずきました。


「そうだな。帰ったらまた働いて、少しずつでも村のためになるように生きていこう」


それぞれの思いを胸に、二人は再び歩き出しました。道はまだ長いけれど、その一歩一歩が新しい決意と共にありました。失敗したとしても、人生は続き、その中で新しい夢や目標を見つけることができる。故郷の空は、きっと彼らを暖かく迎えてくれることでしょう。

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