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一目見たその時から

作者: 笛吹さき


ある日、わたしの意識はあるものに釘付けだった。




「ママーーっ!!これ、これなにーーー??」



大きな声でママに聞いたら、あっさりと


「んーっ、あぁ、フルートよ。」


ママが使わなくなったタブレットに映る画面をのぞき込みながら教えてくれた。



「フルート」



これはフルートと言うらしい。




「珍しいもの見てるじゃない。

オーケストラの動画なのね。

この曲綺麗な曲よね。」


どうやら動画サイトであちこち見ていたら、

カッコイイお兄さんがオーケストラで

フルートを吹く動画を見つけたらしい。


「オーケストラって、なぁに?」


「んーっ、こんな風にたくさんの人で、

これが弦楽器ね、後ろのこの辺りが管楽器、最後に打楽器、こんな感じに色んな楽器で演奏するものをオーケストラって言うのよ」


なんだか種類が色々あるらしい。



「これ、見たことあるよ!ひーちゃんがやってた」


「あー、ひーちゃんね、これはヴァイオリン。

弦楽器のひとつよ。ヴァイオリンは小さい頃から習う楽器だから、早く始める子が多いわ」



いとこのひーちゃんは、ヴァイオリンを習っていて、この前会った時に聞かせてくれたのだ。

確か…きらきら星?


「ふーん、フルートは?」


「フルート?」


「そう、フルート。フルートはいつから始める楽器なの?」


「フルートはどうなんだろう?

ママも知らないから調べてみようかな。

確か、中学校や高校の吹奏楽部にはあったと思うけど……そんなの待っていられないわよね。」


ちょっと笑いながら、ママがわたしの方を見た。

気になったら、すぐにやりたいっ!

そんなわたしの性格をよく知っているママは、


「ちょっと待っててね、洗濯物を取り込んでくるから。」


そういって、外に干してあった洗濯物を取り込みに行った。

わたしの眼は2つとも画面に釘付けだ。


他にもあるかな?

(フルートっと)

ちょうど見ていた動画が終わったので、

新しい動画を見るためにフルートを検索してみる。


タブレットの画面にはたくさんのフルートの動画が出てきて、気になったものをタップして聴いてみる。

今度のはフルートだけで演奏していて、カラオケに合わせて吹いているらしい。

ひとつ見終わった頃にママが急いで戻ってきてくれて、スマホで調べ始めてくれた。


「美乃里、フルートって小学生から始める子も多いみたいよ」


ママはわたしの方を見て、すごくいい笑顔で教えてくれた。


「ほんとう?!!!」


「本当よ〜っ、ほら、見てごらん」


ママはスマホを画面を見せながら、嬉しそうに話してくれる。

わたしが喜ぶのをわかっている時の顔だ。すごくすごく嬉しいっ!!!


「本当だ!」


「フルートって案外早く始められるのね。

小さい頃ってピアノかヴァイオリンくらいしかないと思っていたわ」


ママの見つけたインターネットのページには、

3歳から始められるフルートのためのバイエルという本が映っていた。


実際に使っているのは小学校一年生の子で、

わたしが見たのとは違う、くねっと一つ曲がったフルートを使っていた。


「ねぇねぇ、わたしは、真っ直ぐのフルート使えるかな?」


「真っ直ぐのフルート?

あぁ、この子はU字管っていう、小さい子でも吹けるフルートを使っているものね。

んーと、ちょっと待ってね」


写真に写っているのは、U字管というフルートらしい。フルートは長いから、小さい子が吹くにはこの楽器がいいらしい。

でも、出来るなら、真っ直ぐのフルートが吹きたいと思ってままに聞いてみた。


「美乃里なら、真っ直ぐのフルート、使えるかもよ?」


「ほんとう?!」


真っ直ぐじゃないフルートでもいいけど、

出来たら真っ直ぐフルートが良かったから、

ママの一言にすごくすごく嬉しくなった。


「うん、ここに書いてある感じだと、

小学校5年生くらいからなら、真っ直ぐのフルートが吹けるみたいだから。

美乃里は4年生だけど、背は高い方だし、何とかなるんじゃないかな?

フルートの先生にちゃんと聞いてみないと分からないから、体験レッスン行ってみる?」


「行く!!!すぐ行こう!!」


「先生に聞いてみてからね、家から近いところにもフルートの教室あるといいね」


「うん!」




さすがママ!話が早いっ!

もう、私の頭の中はフルートでいっぱいだ!

あれこれとイメージが膨らんでいく。




「これから、ご飯の支度をするから、

美乃里、調べてみてくれる?」


「わかった!フルートって調べたらいい?」


「そうね、フルート、○○市、レッスンって検索すると出てくるかも」


「フルート、○○市、レッスンだね、

調べたら、メモしておけばいい?」


「そうね、メモしておいて、後で教えてくれる?

ご飯食べたら、ママも一緒に見てどこに体験レッスンに行くか決めよう」


「わかった!」


「よろしくね、じゃあ、今日は美乃里の好きな唐揚げにしよっかな、調べるの頑張ってみてね」


「はーいっ!」



ママは台所へ行って、唐揚げを作る準備を始めた。

わたしは、メモ帳とえんぴつを持ってきて、

タブレットを使ってフルートを習える先生を調べ始めた。







美乃里が調べ始めたのを確認して、

わたしは娘の好きな唐揚げを作る準備を始めた。


洗って水につけておいた白米の水を切って、土鍋に新しい水と一緒に入れて火をつける。

昨日まとめて買った鶏肉を全部切って、重さを計って冷凍する分も仕込んでいく。タレはシンプルに醤油に酒、ニンニクだ。生姜も今日入れようかな。

娘達も旦那さんも唐揚げが好きだから、よく作るためまとめて仕込んでおく。


そろそろ、次女と2人でアイスを買いに出かけた旦那さんも戻ってくるはずだ。


一生懸命タブレットで調べる姿はすごく可愛くて仕方がない。

4年生だから、調べられるかなと娘に任せてみた。

出来なかったら、後で一緒に調べてあげればいい。


興味を持ったら、とことんまっすぐに突き進む娘は、フルートに興味を持ったらしい。


そろそろ習い事を何かさせたいなぁと思っていたところだから、丁度いいのかもしれない。

フルートっていくらするのだろうか。

先月入った夏のボーナスで買えるといいんだけど。


そう考えながら料理をしていたら、

帰ってきた旦那さんと次女に美乃里がフルートについて熱弁している。


どうやら、習いたい先生に目星がついたようだ。




「パバ、陽茉莉、おかえり!見てみてー!

フルート!カッコイイでしょう!!!」


「ただいま、フルート?

へぇ、珍しいもの見てるな。

あぁ、この人、今度文化会館のロビーコンサートに出るんじゃなかったか?」


「そうなの?!」


「確か、そうだぞ。えーっと、ほら、ここに載ってる」


そう言いながら、旦那さんは文化会館の月刊スケジュール表を美乃里に見せていた。

陽茉莉は不思議そうにそれを眺めていた。


「すごい!!この写真もカッコイイ!!」


「ホントだな、そっちの写真は浴衣を着ているのか。フルート習いたいのか?」


「うん!ママにレッスン連れていってもらうの!」


そう嬉しそうに話す姿がなんとも眩しい。

そして、やっぱり、うちの子は可愛い。


「いいじゃないか。フルートならジャズもクラシックも色んな分野で演奏出来るし、なにより持ち運びが簡単だから、どこでも持って行けるぞ。

じーちゃんばーちゃんちに泊まりに行く時持って行って吹いてあげたら、喜ぶだろうなぁ」


「そうかな?そうかな?

そうだったら、嬉しいなぁ」


旦那さんも前向きに考えてくれて、ちょっとほっとしている。


「美乃里ーっ、ちゃんとメモしておいて、後でママにも教えてねーっ」


「はーいっ、ママ、わたし、この先生がいいっ」


娘がカウンター越しに見せてくれたのは、

家から車で20分くらいのところにあるフルート教室のホームページで女性の先生が写っている。


「わかったわ、後でママもじっくり見させてね」


「はーいっ」



我が家の夏の一大イベントは、

フルートのレッスンを受け始めること。

これに決まりそうだ。


好きなことを思いっきり楽しんでいく

娘の姿が鮮明に想像できて、もう既にわたしも楽しくなっている。


いつか、ユーモレスクを吹いてくれると凄く嬉しいなぁ。あの曲は旦那さんとの思い出がいっぱい詰まっているのだ。

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