9 開幕
可愛らしい人。それでいて、頼りにもなりそうな雰囲気。私は自分の運命の人を思い描いたことがあるけれど、こんな人だったっけな。なんて考えていると、私の前を演奏を聞きに良い席めがけ、着飾った婦人方が、私にチロっと一瞥をくれ、通って行った。大ホールに通じるのは、この中ホールのみらしい。
「なるほど、日夏太さんがおっしゃってたのは、こういうことだったのね…」
わざわざ人の容姿を見定めるなんて下品なの、なんて思っていると、背後で演奏が始まる気配がする。拍手が鳴りやむと、前奏が始まり、慌てて私はあたりを見渡す。彼がいないと、こんなに不安に感じるのが、不思議だ。さっき知り合ったばかりなのに。
音楽に急かされて、広い中ホールを突っ切り、セレブレーションホールへと続く、ピアノの裏手へ走る。そこにあったドアを開けて出てみると、まだ行ったことのない別庭が見える。
「こっちじゃないっけ?…っ、ここどこ?」
私はかなりの方向音痴だったことを忘れていた。別庭に出てみて、それらしき方向に走ってみるが余計にセレブレーションホールから遠ざかっている気がしてくる。けれども大ホールは近いらしく、ずっとバイオリンの綺麗な演奏は聞こえてきている。私の友人が、きっと今頃ソロを弾いて、観客は聞き入っているのだろう。それに比べ、私は!…ここ、ホントにどこなの?
焦る気持ちを押さえつつ、キョロキョロと見渡すが、気を抜くとうっかり聞きほれてしまう美しい音楽に全身が、どうしても反応してしまう。