6 妖精少女※
演奏が終わるなり、少女は(少女と言いたくなるほど顔が可愛らしいかった)こちらを見て驚き、恥ずかしそうに会釈をして、俯いてしまった。
「すみません、盗み聞きするつもりは全くなくて。」そう言い彼女の顔を伺うが、一切変化がなく、僕は慌てて言い足す。
「素晴らしい演奏で、つい猫を追いかけていたのを忘れました。」
すると、この美少女は、これまで僕が人生で見たことのない、人を惹きつける、誰よりも可愛らしい笑い方で、言葉にウケていた。
「あのグレーの猫ちゃん、追いかけてらっしゃったんですか?っふふ、だからあの子猫、慌てた様子で走ってきたんですね。」
僕は顔に熱が上がってくるのを感じた。彼女は口を開く前まで上品で淑やかな様子であったが、話してみるとその純粋であどけない性格がわかる。急に自分がこのような場に似つかわしくない、あの観客たちよりも批評をするような、最も汚れた存在のように思えて、恥ずかしく思った。それに、茂みに突っ込んだことでシャツには葉がところどころついてしまっている。
僕が恥ずかしがっている様子を感じたのか、美少女は小さく笑ってそっとこの場を離れようと歩き出した。僕には興味がないようで、まるで猫のようだ。たまらなくて、またしても声をかけてしまった。
「あ、待って!…あの、あなたは演奏楽団の方でいらっしゃって、ここで練習を?」彼女は足を止め、戻ってくると小さく首を振った。
「いや、私はただの観客ですけれど。」
そう言って怪訝そうな顔をしたので、益々おかしくなって彼女に興味を持った。
「では、なぜここでフルートを演奏されていたんです?」
この問いには、少し面倒くさそうに、彼女はそっぽを向いて答えた。
「私は、演奏会に出る楽団に友人がいて、今日のコンサートを楽しみに見に来たんです。でも、あんまり早く着きすぎて、ここの支配人の方が、こちらを案内してくれたんです。」
「へえ。」
「その中で、楽器を紹介して下さった後に、私が様々楽器を経験していたということもあって、ご厚意でこのフルートを一週間貸してくださることになって。」
「…それはまたすごいですね。」
「はい。それで、コンサートまでこの中をあちこち歩きまわってみようと思ったら、案内してもらった庭園があまりに素敵で、つい吹いてしまったわけです。」