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4 小さな旅※
奥へ進んでみると、成程、建物に似合わず庭園は伸び伸びとした自然の手によって作られていた。植物たちの無法地帯となっており、綺麗に整備された石畳やアーチ状のレンガを覆うように、蔦が絡まり、バラが咲き乱れていた。庭園の真ん中には大きな石のタイルモチーフが嵌め込まれ、それだけが人工物らしく浮いて見え、違和感を覚える。庭園の最も奥の噴水は、生い茂った木々の間からの木漏れ日を受け、清らかな泉かのように見えた。
この光景に息を飲み、忘れかけていた神秘的な美しさに感動していたところ、ガサガサと音がして、まだ幼い灰色の猫が僕の前に飛び出してきた。
「かわいいな、お前。」フサフサの毛が愛らしく、撫でようとしたが、猫は僕に関心のない様子で背を向けて走り出した。
「おいっ、待て。」慌てて追いかけ、道になっていない茂みに身体ごと突っ込んだところで、ずっと聞こえていたフルートの音が止んだ。