1 豪華絢爛な洋館
気だるい夏の昼下がり。外は青い空に似合わず、灼熱の午後であるだろう。
広いエントランスは、大理石の階段を上がっていくと、まるでプラネタリウムのような丸い天井の、開放的なホールに続いていた。ワインレッドのレースの裾を持ち上げて慎重に歩く。
「ようこそ、いらっしゃいました。」
丁重な挨拶で出迎えられ、微笑を老紳士に向けられたため、こちらもとびきり上品な笑みを浮かべる。
「ご丁寧にありがとうございます。あの、庭園を案内してくださいませんか?」
このような場でのマナーに疎い私だが、彼は微笑みを崩さず、この挨拶ののちにより好意的な対応をして見せた。
「勿論でございます。ですがその前に、こちらの楽器を紹介させてくださいませんか?お嬢様はピアノにご興味はありませんか。」
私は入るなり目についた楽器へ気もそぞろだった。バレていたのか!
そう驚きつつ、けれども顔には出さずに、そうして欲しいと頼んだ。
この洋館は、内装だけでなく中庭に至るまでもが全て芸術品であった。中でも気に入ったのが、アーチ状に続く廊下に、そこからまた奥の噴水へと続く石畳が延びていて、その上を歩きながら咲き乱れる薔薇や新緑の芽を楽しめる庭園だ。
思わず、音楽をつけたくなってしまい、先程拝借したフルートを手に、心ゆくまま奏でる。