第15話 決着
主の制御から解き放たれた竜兵器は、その本能に従ってフルクトらに牙を剥く!
フルクトたちのはじめの戦いは決着へ進んでいく!
「二手に分かれて撹乱しましょう! でも離れすぎないように!」
「熱線が来るから、だな!」
多分だけど俺がいる時はギヤンは手加減していた。それも当然、俺が死んでしまったら意味が無いからだ。だが今のチープ・ドラゴンにそんな遠慮は皆無、力のままに攻撃してくるだろう。この状態であの熱線を撃たれたてみろ、周囲の被害は予想できない。
「グギャアアアア!!!」
ドラゴンの攻撃はやはり激化している。強靭な肉体を存分に振るい破壊の限りを尽くす。
俺と天使は回避が間に合ってかつ熱線を発射させない距離を維持して常に挟み撃ちの形になるようにしてドラゴンの注意を引く。
チラッと見えたのだが天使の頭に光の輪が出ており、なんとさっきまであった怪我が完全に消え失せていた。
――ドゴオオオッ!!
ドラゴンの攻撃は避けてもなお衝撃波で体力を奪われる。
それと一番の問題が――ぶっちゃけ熱線撃たれなくても被害がスゴイ! ギヤンと違って不必要な攻撃が多いんだよ! おそらくこの空き地の面積は初めて来た時よりも2倍くらいになってそうな気がする。
ここから一番近い民家だと300メートルほどしか離れていない。どこかのタイミングでドラゴンを誘導しなければ。
――ズドン!
「ガアアアッ!!」
天使の魔力弾がドラゴンの眼に直撃する。
「こっち!!」
その隙に俺はドラゴンの横をすり抜けて村と逆方向の森の中へ駆け込む。
何とか誘導できればいいけど――
「ガギャアアアアアッッ!!!」
後方から凄まじい咆哮と木々をなぎ倒す音が聴こえる。
「アイツすんげー怒ってんぞ!」
「そりゃあ眼まで潰されたんだし当然だわ。おかげで他に注意が向かなくて助かるけど! このまま村から遠ざけましょう!」
「オッケー! ちなみに今何秒くらい?」
「あー、15秒くらい?」
「そんだけかよ!?」
「嫌な時間は長く感じるものよ」
そういう問題じゃないと思うが…… 兎にも角にもこの調子で作戦を続けていこう――
━━時は少し遡り
「フーちゃんもメイちゃんも気に入ってくれたかしら」
料理道具を片付けているとポツリと声が漏れた。
お弁当を作るのは久しぶり、昔フーちゃんと一緒に近くの空き地でピクニックをしたとき以来かな。
「それにしてもどうして急に作りたくなっちゃったのかしら――」
こういう直感はときどきある。なんとなく何かをしたくなると言うか、した方がいい気がすると言うか。
「まあ楽しかったしいいか」
今日はいい天気だし外は気持ちよさそうね。ふたりは何してるんだろう。
「ふふっ」
それを想像したらフーちゃんがまたメイちゃんに振り回されてるところが思い浮かんだ。
メイちゃんが来てもう2ヶ月くらいになるのかしら、なんだかんだ仲良しなのよね。この辺りには同年代の子がいなかったからフーちゃんにもお友達ができてちょっとホッとしたりして。
――カタカタカタ……
突然、片付けていた食器類が揺れだした。
「なに――」
「ゴアアアアアアア!!」
空気を揺らすくらいの大音に反射的に耳を塞ぐ。
動物の叫び声? でもここらにこんな声の動物はいないはず。
――ドゴオオオオオオオオオオ!!!!
「うううッ!」
耳に残っていた叫び声がそれを上回る爆発音にかき消された。今度のは空気だけじゃなくて地面も激しく揺れていて壁にもたれかかっていないと立っていられない。
「――うぅ、収まった? ……まあお皿が……」
声といい地震といいどう考えても普通じゃない。床に散らばった食器類を避けて外へ向かう。
「ふたりとも大丈夫かしら……!」
「あ! ママさん! 無事かい?!」
扉を開けると聞き知った声に呼びかけられた。
「トバさん! 私は大丈夫です。トバさんも無事でよかった。一体何が?」
「分からないよぉ! 変な声とか地震とか、何がなにやら。とりあえず一旦村長さんのとこに行こ!」
「待ってください! うちの子がふたりいないんです! だから探しに――」
「待ちな! あんただけなんて危ないよ、男衆に事情を説明して協力してもらった方がいいよ!」
……この声は多分普通の動物じゃない。たしかに私一人だけじゃ何もできない。
「……分かり、ました」
村の中心にある村長さんの家にはもう既に人だかりができていた。
「皆落ち着いてくれ。まずはあの声の主が何であるのか、心当たりのある者はいるか?」
集まった人たちが口々に相談するなか、一人の男の人が手を挙げた。ソドさん、たまに畑仕事を手伝ってくれる人だ。
「おおソド、何かあるか」
「はい。俺は昔、国の魔獣処理部隊にいたんですが……Aクラスの魔獣処理の時に同じ声を聞いたんです……」
そこにいた全員が唾を飲み込み次の言葉を待ちわびた。
「あれは多分……竜の声です」
竜……竜……この世界で最も恐ろしい魔獣のひとつ…………
体が自然ともと来た道を戻ろうとしていた。
「待った! あんた、どこ行く気?」
「決まってます……!」
「聞いてなかったのかい!? 竜だよ!? 危険すぎる。それに二人がどこにいるかも分からないじゃない!」
「だからこそです……私の子たちがそんな危ない目に遭ってるかもしれないのに……私が行かない訳にはいきません! それとあの子たちは森の空き地にいると思いますっ!」
「あっちょっと!」
トバさんの静止を振り切り土煙の上がる森の方へ駆け出した。
多少の茂みやはみ出た枝など気にせず一直線に空き地の方向へ走る。服が破れたり肌を切ったりしたけど些末なことだ。
我が家から数百メートル離れた森の中にぽつんと開けた所がある。どうしてそこにだけ木が生えないかは知らないけれどいつも陽が差して心地いい風が吹く場所だった。
だけれど、今私の前に広がる空き地は記憶にある穏やかな印象では全くなくなっていた。
優しい木陰を作っていた木々は乱暴にへし折られ、陽光をいっぱいに溜め込んでいた地面は抉られ、割られ、大きな穴が空いている所もあった。
ここに着くまでにも揺れや叫び声は止んでいなかった。
「――っ!」
それを見た瞬間、身体が、指先の血管に至るまで縮こまったような感覚に襲われた。
竜の足跡の中心に大きく真っ赤なシミができていた……
――ドォォン……
「!!」
また音がした。その方向には倒れた木が道らしくなっていた。考えるより先に動いていた━━
「右みぎミギ!!」
――ドゴオッ!
「左ひだりヒダリ!!」
――バゴオッ!
「うひゃああああ!!」
今のはヤバかった! 顔の横スレッスレだった!
さっきから天使と動きがズレる。
「ちょっと遅いわよ! このままじゃ追いつかれる!!」
「そんな……ハッ、ハァッ……言われても……くぅッ」
徐々に天使との距離が開いていく。体力はとうに限界、魔力も尽きかけで身体強化もほぼ意味が無くなっている。
「あと30秒もないから頑張って!」
「ッ――うあああああ!!!」
終わりがみえたことで全身が奮い立つ。自分史上ここまで死にものぐるいになれたことがあったか、いや無い! これが火事場の馬鹿力ってやつかあ!!
最後の最後まで目を開けて! 前に進む!!――前……あれ、前が……無い…………
「おいおい道が無いぞ! 崖じゃん崖ェェェ!!!」
「分かってる今どうするか考えてる!!!」
残り数十メートル、このまま走るとあと10秒足らずで地面が消える。崖の向こうは空しかなく跳び越えることはできない、かと言って方向転換すれば追いつかれる危険がある。迎え撃つ魔力も残っていない。
どうする――
《彼女と一緒に竜を跳び越えろ》
思考が飛び交っていた頭の中にあの時の声が響いた。
「あ!?」
《崖際まで行ったら二人で竜を跳び越せ》
声は淡々と続ける。
「なんでそんな、てかどうやって!!」
「まだ何も言ってないわよ?!」
《詳しくはやりながら聞け。早く準備しろ、死ぬぞ》
「くそッ、ワケわかんねーけど――天使!!」
えらく高圧的な声だがなぜかこの声に従うのがベストだという感覚があった。
「えっちょっなに!?」
声の言う通り天使の手を取りこれからしようとしていることを説明する。全く理解できていなさそうだけど強行するしかない。もう崖はすぐそこだ――
「はああああアッ!!!」
「ちょちょちょっ待ッ!!」
《――跳ぶ瞬間は踏み切る足にだけ魔力を集中させろ。それなら今の君の魔力でも十分距離が出る。くれぐれも前に跳ぶな、上に跳んで竜を通すイメージだ》
《――竜の体躯ではすぐには止まれない。必ず隙ができる。最後は彼女に託せ》
「頼む! 天使ィィィ!!!!」
「そういうこと、ね!!!」
――ズダンッ!!!!!
魔力弾は俺が攻撃したところと同じくドラゴンの眉間に直撃した。
ドラゴンは大きく体を仰け反らせ、そのまま崖下へと消えていった。
「や、やった!!」
「――危ない!!!」
――ドガアアアアッッ!!!
地面を貫いたのはあれほど警戒していたドラゴンの熱線だった。ヤツが消滅する寸前に放ったんだ、たった一人でも道連れにするために。
悲鳴を上げる身体をねじ伏せ言うことを聞かせる。
速く、もっと速く動かないのか!
天使の姿が瓦礫と一緒に消えていく。
絶対助ける!! 助ける!!! 助ける!!!!
そのためにここにいるんだ!!!!!
「天使ィィィーーーーッ!!!!!」
ちぎれるくらいに伸ばした手は、虚しくも天使の手を掠めることしかできなかった……
「は……はは……マジかよ――」
俺の手は届かず、虚空を掴んだだけだった。しかし、確かな重みを支えていた。
「ここで発動するのかよ……!」
俺の天外能力――ただものを引っ張るだけの能力――は今この瞬間に天使を救える、俺の理想の能力となったのだ。
「言ったでしょ、絶対役に立つって」
空中にぶら下がったまま天使は誇らしげに言う。
「っし、引き上げるぞ――重っ! うわっ!」
身体強化が無い状態で、まして子どもの身体で人ひとり引き上げるのはまあキツく、反動で天使を抱きとめるかたちになってしまった。
「あんた、今なんつったぁ?」
「しょうがないだろ素の力は子どもなんだから! そっそれより早くどっどどいてくれない!?」
不可抗力とはいえ異性とこんなに密着するのは前世含めて初めてですので! 当然ながらめちゃくちゃドギマギします!!
「いいでしょ別に。ついでにこのまま言わせて――」
「ありがとう、助けてくれて」
天使はそう耳元で囁くと顔上げてニッと笑ってみせた。
俺はこの世界に来て自分のことについて分かったことがある。俺という人間はこういう顔を見たらそれまでの苦労や先々のことが、割とどうでもよくなってしまうらしい。
「あなた、やっぱり勇者向いてるかもね」
「どうだかな」
まだまだ理想には遠いと思いつつも、もしかしたら、はにかんでしまっていたかもしれない。
フルクト・・・主人公。憧れ続けた勇者になるため戦う。
天使・・・はメイデと名乗っている。最も得意な魔法は回復魔法。
ママ=マムール・・・フルクトの母親。おっとりしているがどこか抜け目ない。魔法がちょっと上手い。




