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勇者スイッチ  作者: 阿弥登
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第12話 VSギヤン

ヤンキの襲来を跳ね除けたフルクトたち、しかしそこにギヤンの魔の手が迫る──

「ったくガキにやられやがって」


 新たに現れた男は伸びている男を見て呆れたように吐き捨てた。


「にしてもガキのくせしてちょっと強えなあ……面倒な仕事だ」


 男は懐から小型のナイフを複数取り出す。


「……あなたは下がってなさい、私がやるわ」


 そう言うと天使は1歩前に歩み出る。


 戦いの火蓋は切られた――


「ふんッ」


――ビシュッ!!


 男が投げつけた何本ものナイフが一斉に天使に襲いかかる。速度は天使の高速魔力弾に匹敵するほどで避けるのはかなり難しいだろう。しかも、1本1本にしっかり魔力が込められており威力も高そうだ。ナイフということも相まって単純な殺傷能力で考えると魔力弾より上だ。

 しかし天使は焦った様子を見せず――


――ガガガンッ!!


――その場から1歩も動かずに全て素手で弾き落とした!

 いや、素手と言うには違和感がある。天使が手で払い除けるようにして攻撃を防いだのは事実だ。が、俺の目が正しければナイフは空中の何かに当たって落ちたように見えた。


「チッ」


――ビシュビシュッ!


――ガガガガンッ!


 攻防が続いている。

 男の方は次々と位置を変えナイフ投げ攻撃するが、尽く天使に弾き落とされている。

 そんな様子をしばらく観察していて分かったことがある。天使は攻撃を防ぐ瞬間に魔力の層を作り出しているのだ。ナイフがぶつかっていたのはこの層――バリアと呼ぼう――だった。


「どうやら気づいたみたいね」


「えっ?」


 急に話しかけられたからびっくりして声が出た。まさかこいつこの状況でも俺に戦い方を教えてくれてたのか……?


「それじゃそろそろ――攻めようかしら」


 天使が手を高く挙げる。すると大量の火球が頭上を埋めつくした。

 試練(あのとき)よりもずっと多い……! 


「はぁッ!」


「マジか…………ぐッこのッ――おあああァァ!!」


 降り注ぐ火球はまるで流星群だ。試練でこれをやられていたらと思うとゾッとする。はじめの数発は凌いだものの逃げ場を失った男は爆発音と叫び声と共に黒煙に消えた。

 流石に決着だろうか――


 その時、森の中を猛スピードで駆け抜ける影を目の端に捉えた。

 あいつ今の攻撃を避けたのか?! というかなんだ? この変な感じは…………()()以外の情報が入ってこない、と言うのが一番近いかな?

 俺は今その姿を視ているからヤツがどこにいるか認識できている。だがヤツの出す()()()といったものが全く感じ取れないのだ。瞬きの間だけでも視ることを止めてしまえば二度と捕捉できないかもしれない。

 男は空き地の縁に沿って天使の死角に回り込んでいる。天使はまだ煙の中を警戒したままだ。

 まずい!――


「違う! そこじゃない!! 後ろだッ!!!」


 そう言った時には既に天使の真後ろに黒い影が迫っていた。


――ヒュンッ――ブシッ!


()ッ……!」


 紙一重で飛び退き致命傷にはならなかったが肩からは少量の血が吹き出す。

 あの男……迷わず首を狙っていやがった……!


「大丈夫か!?」


「へーきよ」


 俺の心配とは裏腹に天使の返事はめっちゃ軽い。


「はァァーーー……ガキを痛めつける趣味はねえんだよ。今ので殺られてくれりゃお互い楽だったのによぉ」


「ならそこのお仲間さん連れて帰ったらどう?」


「無理だ、仕事だから――な!」


 男が再び襲いかかる。さっきまでの投擲や奇襲攻撃と打って変わって正面戦闘だ。目まぐるしい戦いの中でも男の存在感は曖昧だ。これは相当しんどいだろう。トリッキーな動きをする男を常に視界に入れておかないと致命傷に繋がりかねない。

 しかし、流石だ。今までの戦いぶりから近接戦闘は苦手なものかと思っていたけど認識を改めた方がいいかもしれない。


「あの女、めちゃくちゃ強え……!」


――ヒュンッ!――ガキンッ!


――ドゴッ!


「おぐッ!」


 ナイフの攻撃を防いだ一瞬の隙に蹴りが入った。天使の体は宙に浮き数メートル吹き飛ぶ。

 いくら応戦できると言ってもやはり近接戦闘では男の方に分があるか……!


「ハァ……ハァ……へっ、ほらほらまた守りに回ってんぞ?」


 男が指をくいっとして挑発する。

 いつの間にかまたヤツのペースだ。近接戦闘では押され気味、お得意の弾幕は――おそらくヤツの能力を使われるから――危険…………もしかして結構マズイのでは? 一体どうするんだ……


「――ふっ」


 天使が俯いたままヤツに見えないように笑った? これは……何か作戦があるのか!



「おおりゃあああ!!」


――ズドドドド!!


 ウソだろおい! あのバカッここでそんな攻撃したら……!

 案の定土煙が立ち、男だけでなく天使自身も飲み込まれていく。もし倒せていなかったら…………そう思いながら俺は何度も唾を呑んだ。


――ドゴオオオ!!


 どれくらい経ったんだろう、煙幕の奥から聴き慣れた音が響いた。


「ガッ……ハッ…………!」


 飛び出してきたのは男だった。そのまま木に激突し地面に落下する前に地中から伸びてきた根が動きを封じた。


「あんたの敗因は――子どもナメすぎ」


 服をはたきながら余裕の表情で現れる天使。


 今度こそ決着みたいだ――



「はいナイフ(これ)は没収。ん、あなたどこかで見た顔だと思ったらギヤンね。ってことはあっちはヤンキかしら。なんでこんな所に?」


「誰だ?」


「指名手配犯」


「うえぇ!?」


 そんなサラッと言うなよ! ヤバいヤツらなのは分かってたけどまさかそんな大物だったとは……ちょっと離れとこ。


「…………依頼があったんだ。そこのボウズを拐ってこいってな。気味悪いのが嬢ちゃんを目印にしろって送られてきた調査書でな。……完璧だった、ここ何ヶ月かの嬢ちゃんのことが全部書かれてあった」


 首筋に水でも垂らされたみたいな冷たさが走った。見た目上は小さな女の子のことを付け回して記録する奴がいる。しかも目的は俺の誘拐だと…………?

 チラリと天使の顔を見ると目を少し見開き指を顎に当てて考え込んでいた。額には数滴の汗が浮いている。


「流石にブルったね……『お前のことも全て知ってる』って脅されてる感じだった。だから、ぐむっ――」


 ギヤンの口が大きく膨らむ。その中には紫色に輝く美しい宝石があった。


「この仕事、ミスれねえんだよ!!!!」

フルクト・・・主人公。誤って勇者としてこの世界に生まれた。


天使/メイデ・・・簡単な魔法・魔術はだいたい使える。


ギヤン・・・裏稼業を生業とする指名手配犯。

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