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勇者スイッチ  作者: 阿弥登
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第11話 VSヤンキ

天外魔術の修行を続けるフルクトと天使に忍び寄る影。彼らは遂に悪意の末端に触れる──

「ん〜これ美味しいわね」


「うんムグムグ、流石だよなモグモグ美味い」


 日も高くなり優しい陽気が空き地に溢れている。

 俺たちは今昼飯中だ。弁当の中身は母の作ったサンドイッチだった。香ばしいパンにハムや野菜がたっぷり挟まれている。具沢サンドイッチにある食べる時に崩れる問題も何故か発生しない。町で店でも出したら十分名物となりそうだ。

 天外魔術? はっはっはっその話はよそうではないか。


「結局あれ以上の収穫は無かったわね」


 よそうよ。


「……そうだな」


 天使の言葉が全てだ。しばらく練習を続けたが特に嬉しい発見は無かった。

 能力としては本当に物を引っ張るだけだ、自由に動かしたりなどはできなかった。パワーに関しては引っ張った勢いでシュの実をキャッチできるくらいにはなったが天使の体勢を崩した時ほどにはなっていない。そこは練習だろう。


「仕方ないわね。大丈夫よ、どんな力であれ勇者の力だもの。いずれ何かの役に立つかもしれないわ」


「勇者の力……か。なあ、今更だけどさ……勇者の使命ってのは具体的にはなんなんだ?」


「えっと……ごめんなさい、前に言った世界の乱れを収める以上は分からない。大抵は巨悪だったり災いだったりを除くことらしいから、今回も――」


「なにかと戦うってことか」


「ええ。……不安?」


「…………なんて言うか色々考えてさ。士堂慧唯として死んで目が覚めたら全くの別人になってて、記憶もぐちゃぐちゃになって、戻ったと思ったらお前が来て俺は勇者なんだって……もう訳分かんなくて。あの時は俺もやるって言っちまったけど落ち着いて考えてみたら……その……俺なんかでいいのかなって……」


「…………それでも、あなたにしかできない使命(こと)なの」


「でも――」


「大丈夫! こうなった原因は全部私。あなたは絶対、私が――」


「あーーーーーー! 前髪だけ白いガキ!」


 天使が何かを言い切る前に背後から叫び声が突き抜ける。声の方向に振り返ると見たことのない男がこちらを指差している。

 言ってることからして天使を探していたのか? そう思い天使の顔を見たが表情に緩みはなくジッと男を睨んでいた。どうやら知人ではないらしい。


「てことは隣のお前が例のガキなんだなあ!」


「隣……って俺?!」


「そうお前! ボウズ、悪ィんだがちょーっとお兄ちゃんと来てくんねえかなあ?」


 男は両の手の平を見せ敵意がないことをアピールしながら近づいて来る。


「止まりなさい。先に要件を言いなさい」


 俺が受け答えをする前に天使が立ち塞がった。


「おいおい、別にオレっちは怪しいモンじゃねえ。ただちょっとそのボウズと遊びてえだけなんだって」


「じゃあ素性を明かしなさいよ」


「え、いやーそれはちょっと……」


「それが怪しいっつってんのよ! どう考えたって不審者じゃないの!」


「いやちがっ……だーーー! もういい! やっぱオレっちにこーゆーのは向かねーー!」


 男は頭を掻きむしり一度たりとも洗濯してなさそうな服から灰色に光る宝石を取り出した。

 それがただの宝石ではないことは一目で解った。小さいながらもしっかり魔力を秘めている。


「! あなた一体どこでそれを?!」


「へっ、教えっかよ!」


 男が宝石に魔力を注入すると宝石は輝きを増し光の粒子を放った。その粒子は次第に一箇所に集まっていき――


「来い! 『粗悪な爪牙(チープ・ポーン)』!!」


 現れたのは大きめの狼のような獣だった。灰色の毛並みは粗く、ヨダレをダラダラと垂らし唸りを上げている。


「なんだありゃ!?」


「あれは召喚術。魔力で作った獣を操作する魔術よ。で、あいつが持ってる宝石が術に必要な召喚石ね」


「よく知ってんじゃねえか嬢ちゃん! どうだ、これでもまだオレっちに逆らうか?」


 男が凄む。こうして脅せば子ども二人くらい言いなりにできると思っているらしい。


「ぷっ、あなたねえ、そんな初心者向け召喚獣で威張らないでくれるかしら? ということであれは任せるわ」


 こちらに振り返った天使の顔にさっきまでの厳しさはない。俺の肩をポンと叩くと後ろの方へ歩いていった。


「おいほんとに俺一人かよ」


「だぁいじょうぶ、勝てるわ。あなた自身もそう思うでしょ?」


 天使は拳を上げてすっかり観客気分だ。


「なにごちゃごちゃ言ってんだ! いいんだな? ガキだって容赦しねえぞ!」


「全くしょうがねえか」


 俺は立ち上がり構える。



「行けッ!!」


「グルルル……ガウッ!!」


 男の声と共に狼が駆け出す。流石にかなりのスピードだ。まっすぐ詰めてきた狼は自身の間合いに入ると跳躍しその鋭い爪と牙を突き立てようとする。


「ほいっ」


 スっと回避。

 天使の言葉は事実だ。俺はこの狼には勝てると思っている。

 この狼、確かに普通の動物よりは魔力量が多いがそれでも大した量じゃない。多分今の俺なら避けなくても肉体強化で受けられる。初心者向けという言葉通り召喚術を学ぶうえで最初に召喚するのがコイツで、あまり強く設定されていないのだろう。その後の追撃も全て避けられる。


「ガアッ!」


 散々躱され苛立ったのだろう。攻撃が大振りになった。

 ここだ――


「たあッ!」


――ドゴッ


「ギャゥ!」


 攻撃後の隙を突き俺は狼の横腹にカウンターキックを叩き込んだ。鈍い打撃音と狼の悲鳴が響く。


「クソッあのガキ結構割と強え……! オラァッ!」


 男が宝石にさらに魔力を注ぐのと連動し狼の魔力量も増えていく。


「グガアアアアアア!!」


━━魔力量が倍ほどにまで膨れ上がった狼の姿は変貌を遂げていた。

 より鋭く、より危険に、全身の毛が逆立ち、眼は零れ出るほど見開かれ、巨大化した爪と牙は冷たく光を反射し、仕留められる命の範囲内にお前も入っているのだと伝えている。空気を揺らす咆哮は並の人間が聞けばそれだけで動けなくなるほどの凶暴性を帯びていた。


「う……ッ」


 フルクトは知らぬ間に1歩、後ずさりしていた。


「ガアアアッッ!!」


 強化されたチープ・ポーンはスピードもパワーも格段に上がっている。今まともに攻撃を食らえばダメージは免れない。

 激化する攻撃にフルクトは劣勢を強いられている。回避行動には余裕が無くなり間一髪のところで逃げ回っている状態だ。


(急に動きが悪くなった。どうしたの……?)


 その様子を天使は僅かに歯を食いしばり見つめる、いざという時のために手に魔力を集中させながら。


(くっそぉッ、なんでだ!? さっきまでちゃんと動けてたのに!)


 フルクトの心にあったのは勝てると確信していた相手への思いがけない苦戦による()()と身体が思い通りに動かなくなったことへの()()

 チープ・ポーンは最も初歩的な召喚獣で性能も低い、強化したとはいえ今の彼なら苦戦せず勝てる相手だ。にもかかわらず、変貌した大狼を見た瞬間から身体が指示通りに従わなくなってしまっていた。


「はあッ――! はあッ――!」


「へっ、何が勝てるだあ? 最初だけじゃねえか! 終わりだ!」


「しまっ――うわッ!」


 今までにない低姿勢のタックルに対応できず倒されてしまう。チープ・ポーンはすぐさま追撃に繋げる。


(やべえッ!!)


 鋭い牙がすぐそこまで迫る――


――ズドンッ!


「ギャワアアア!!」


「えっちょっ! うおお来るな来るなああああ!!」


――ドオオオォォン


 鋭牙が突き刺さる寸前で高速の魔力弾が狼を撃ち抜いた。その反動で吹き飛んだチープ・ポーンは男を巻き込んで土煙を上げている。


「……ありがとう、助かった……」


「はあ、一体どうしたのよ。急に動きが悪くなってたけど?」


「それは…………すまん。それよりあいつらは?」


「…………ふん。あいつらなら、ほら」


 天使が指差した先では狼と男が伸びていた。召喚獣はボロボロと体が元の光の粒子に戻っており、男の持っていた宝石は砕け光を失っていた。


「召喚獣も召喚石も完全に破壊したからもう安心よ」


「そっか……」


「マッタク! 何だったのかしら?」


 天使は両手を腰に当て眉をひそめる。

 フルクトは負けた。 未だ力の入らない脚を押さえて思う――


(やっぱり……俺じゃ…………)




「ヒュー、すげえなあ」


 森の奥からまた一人、男が現れる。その佇まいと刃物を思わせる眼差しからこいつも敵だと二人は即座に判断した。


「ほんじゃまあ、2回戦といきますか」


 まだ脅威は去っていない――

フルクト・・・主人公。自分が何者であるか、答えはまだ出ていない。


天使・・・フルクトを巻き込んだ張本人。マムール家ではメイデと名乗っている。


男/ヤンキ・・・指名手配犯。フルクトを拐うためにやって来た。

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