第10話 兆し
ついにフルクトは天外魔術の手がかりを掴む──が、同時に悪意も蠢き始める。
「何を言い出す?」
「ここからあの実を取ってみてって言ってるのよ」
天使は数メートル先の切り株の上の赤い木の実を指差す。取りに行かずに取るって……無理だよ? いや…………無理だよ?
「……これってなんかのテスト?」
「うーん、と言うより実験かな。あなたの天外のね」
天外とは後天的に習得する通常の魔法・魔術とは異なり、生まれたときから魂に備わっている特別な力のことだ。安っぽく言うとものすごい才能ってとこだ。
当然保持者が生まれるのは極々稀なのだが勇者は特別で確実に天外を持って生まれてくるそうだ。
間違いとはいえ勇者として生まれた俺にも刻まれているらしいのだがどういう能力なのかは判っておらず未だに発現させられていない。
「実験?」
「ええ。少し心当たりがあるの」
俺には無いんだけど? 最近あったことといえばあのテストだけど使ったのは魔法だしな。特別な力、特に遠くの物を取れる力なんて使った覚えがないぞ?
「ずっと考えてたのよ。昨日のテスト、最後の最後あなたの攻撃に対応しようとした時に何かに引っ張られたのよね」
「あぁ〜そういやよろけてたな」
そうだ、天使はあの時しっかり反応していたのだ。俺はもう突っ込むしかなかったから気にしなかったが普通なら絶対迎撃されていた。だが突然体勢を崩してくれたおかげで的を奪うことができたのだ。てっきり足がもつれたのかと思っていた。
「あの時何をしたか思い出してみて」
「何をって別になぁ………………手に力込めて振りかぶった……とか」
「まあやってみましょうか」
「お、おう……」
本当にこんなことが天外なのかと疑いながらも促されるままシュの実のほうへ手のひらを向け、グッと握り込む。そのままグイッと引っ張るようにに引き込むと――
――コロッ ――ポトリ
「おっ?」
「当たり……かしらね。うん――」
…………切り株の上に乗っていた実は引っ張ると同時に僅かに転がった。ふむ、これが俺の天外なのだろうか………………
「「地味じゃね
ね 」」
「やっぱそう思う?」
「すごく思う」
ですよねぇーー! や、すごいんだよ? 元の世界基準で見たら手を使わず物を動かせるなんてすっげーエスパーだ。これだけで飯食っていけるレベルだ。しかしこれに『勇者の力』っていう肩書きが付くと一気にしょぼく感じてしまう。こっちで色んな魔法や魔術を見たあとだと尚更に!
「な、なあこれってさ、ほんとに勇者の力なのか?」
「そうね〜。力を使う時魔力を使ったかどうかね」
「……使ってません」
「確定です」
体の中の空気が全てため息として出ていった。
「ま……まだ分からないわ、もしかするともっと使い方があるかも。もう少し練習してみましょう」
天使は苦笑いを浮かべながらも可能性の話をしてくれた。そうだ、まだ何か秘密があるかもしれない……ぶっちゃけ嫌な予感はするけど…………
やはり俺が二人目……イレギュラーであることが関係しているのだろうか。こんなのが本当に役に立つのだろうか。大きな不安を抱えながらしばらく力の練習を続けた。
━━同刻。フルクトたちのいる空き地とさほど離れていない森の中にふたつの人影がある。男二人、一人が先を歩きもう一人がその後を追うように歩いている。
「や〜こんな辺鄙なトコにいるガキを拐ってこいだなんて一体どんな野郎なんですかね」
「はっ、俺らみてえなのにんな事頼む奴なんざろくな奴じゃねえよ」
口ぶりや佇まいから先を歩くのが兄貴分で後を歩くのが弟分のようだ。
「でもこんな物をほいそらとくれるんですぜ? 結構な金持ちか偉え人なんじゃねえですかい?」
弟分の男が最後に洗ったのがいつか分からないほど汚れた服のポケットから灰色の宝石を取り出す。鈍い光を放つそれはどう見てもこのような身なりの男に見合う代物ではない。
「バカ野郎! それを気安く出してんじゃねえよ! ……依頼主が何者でも関係ねえ、俺たちゃ仕事するだけだ。前金も貰ったしさっさと終わしてパーティといこう」
「ですね。ケケッ」
兄貴分の男がニヤリと笑うと同調するように弟分の男も笑った。下卑た笑み、彼らが善い人間でないことは明らかである。
兄貴分の男の名前はギヤン、傷害・窃盗・脅迫等合わせて32件、そして2件の殺人の罪で指名手配中の筋金入りの悪党である。弟分の男はヤンキ、こちらもギヤンと一緒に罪を犯してきており手配中だ。
そんな男たちがなぜこの平和そのものの集落に訪れたのか、それはある一通の封筒から始まった。
現在彼らが活動しているのは主にファスタラという国である。部分的に見れば発展した国なのだが首都及びその周辺とそれ以外の地域の格差がまだまだ大きい。
彼らが根城としていたのはそれ以外にあたる地域にあるタレスという町だ。タレスは国内でも一二を争う治安の悪さでチンピラや小悪党はもちろんギヤンのような極悪人が潜伏地としている法の届かぬ町である。
ある日ひと仕事終えたギヤンたちが部屋に戻ると扉のに封筒が立てかけられていた。宛名、送り主の名前共に書かれていない。
開けて中を確認すると分厚い書類の束と800万ラピ、そして美しい宝石がふたつ入っていた。一方が灰色もう一方が紫色でどちらも妖しい光を放っている。
書類の1枚目は依頼文で、とある少年を拐ってきて欲しいこと、少年を探す目印となる前髪の白い少女のこと、ふたつの宝石のこと、成功報酬は前金の2倍ということなどが機械のように美しい字かつとても丁寧な文章で書かれていた。
1枚めくるとターゲットの少年ではなく前髪の白い少女の足取りの調査書になっていた。
恐ろしく綿密な調査が行われており、その日に少女が話した内容や食べた物さらには寝た時間まで少女の行動の一切が詳細に書かれていた。これを読むだけで名前も顔も知らぬ少女の趣味嗜好、生活リズムが分かってしまうほどだった。
それを見たヤンキは感嘆の声を上げる一方でギヤンは恐怖を覚えていた。
これほどまでの調査ができる人間に自分は目を付けられている、既に自分の調査も行われているのだろうか……そう考えると全身の毛が逆立った。
断る理由は無かった。
「よし、こっからは手分けすんぞ。テメーは向こう探せ」
「了解でっす!」
脅威はすぐそこまで来ている━━
フルクト・・・主人公。不手際で勇者になってしまった。
天使・・・フルクトを勇者にしてしまった張本人。
ギヤン・・・指名手配犯。優秀な裏稼業人。
ヤンキ・・・ギヤンとはずっとコンビで働いている。
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ラピ・・・この世界での共通通貨。(感覚は円と一緒です)
ファスタラ・・・フルクトたちのいる国。(フルクトは端っこのド田舎に住んでいます)




