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勇者スイッチ  作者: 阿弥登
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プロローグ 始まりの誤ち

俺の名前は士堂慧唯(シドウケイ)、好青年をやっているんだがココ最近調子がイマイチ・・・しかもある日突然通り魔に殺されてしまい──

 夜も更けきっているのに窓の外の街には活気の光が煌々と灯っている。あの光の中では休むことなく誰かしらが生きているのだろう。窓にはもうひとつ、そんな疲れ知らずの街とは対照的な顔が映っている。目の下にはクマが浮かび、眉は無意識に八の字に曲がっている。

(今日も今日とてしけた顔してやがるな俺は)

心の中で自分に悪態をつく。今日は大学も忙しかったのに加え、バイト先の先輩に頼まれてシフトを肩代わりしていた。しかも今日に限って盛大なミスをしてしまい気分はドン底だ。最低な気分のままフラフラと駅から出る階段の上に差し掛かった時…おぼつかないながらもなんとか前に進んでいた脚が狂った。


世界がスローモーションだ


    浮遊感と不安が比例して増していく


天地が逆転して……


 ――気がつくと、最後に記憶があった場所から数段下で俺は誰かに腕を掴まれていた。

「おい大丈夫か?!」

腕を掴んでいたのは中年の男性で心配そうに顔を覗き込んできた。髪は少し荒れ気味で顔色はあまり良くなく、目元に濃いクマを浮かべていた。俺よりも明らかに具合が悪そうだ。

「あ…ああ大丈夫すありざいます…」

「そうか、良かった! 気つけなよ!」

呂律の回らないままお礼を言ったのに対して男性(おんじん)は痛々しいほど快活に笑って答えてくれた。なんだか急に恥ずかしさが込み上げてきて会釈して逃げるように階段を駆け下りた。


「っはぁ〜〜」

 駅から離れ周りに人の気配がなくなると大袈裟すぎるため息が出てしまった。

(あんなに疲れてそうだったのに…助けてくれてた。俺もあんな風に……)

多分無理だ。大体俺は――

そんな他愛ない後悔を考える寸前で自分でストップをかける。

(やめだやめだ。んなこといちいち考えてらんねえし、なんか楽しいこと考えよ。)

 今日は華の金曜日、しかも今週は三連休だ。そういえば今日ハマっているアプリゲームにお気に入りのキャラが実装されたんだった。給料も入ったことだし奮発しようかな。などと考えているうちに気分が少し晴れて足取りも軽くなってきた。そろそろゴールが近い、橋の上から我が家が見える。橋を渡り終えた時、

█████████████████████████ 背中に刺すような視線を感じた。振り向くとすぐ後ろに人がいる。俺の心の中に驚きとは別の本能的な()()が広がった。全身真っ黒の服を着てフードまで被っている。さらに後ろの街灯の光が逆光となっているせいでまるで影がそのまま立ち上がったかのようだ。影がするりと牙を抜いた。切っ先に反射した光が自分に狙いを定めていると告げている。

(逃げなければ)

 そう思うのは心だけで体には一切の指令が届かない。一歩、影が踏み出した瞬間、遂に体が心に従った。家まで50mとない、これなら助█████████████████████████


(起きてくださーい)

 どこからともなく声が響いてくるが、反応できない。手足の感覚がない。

(ふん、まあいいわ。このままやっちゃいましょ)

 多分女の声だということは分かったが音として聴こえるだけで言葉の意味は分からない。頭にモヤがかかったみたいで考えを組み立てようとしてもすぐ霧散してしまう。

(でもなんでこんな所に大事な魂を置いて……かしら……しかも印も付いてる………ない! でも……す……し違う?)

 どうやら懸命に繋ぎ止めていた糸がそろそろ限界らしい。引き伸ばされ、繊維が一本ずつ解れていく……。

 ――まさか……俺は……死んだのか


「ふぅ、なんとかなったわね」

 一人の女性が一仕事終えたように腰に手を当てながら目の前の根っこのようなものに光のモヤが吸い込まれていくのを見ている。白いスーツのような装いと対象的な背中の中間辺りまで伸びた黒髪は頭頂部から前髪にかけて一部が白く変色し、小さな翼で抱かれているように見える。頭上にはおぼろげに発光する輪が浮かんでおり明らかに人間とは違う雰囲気を醸し出していた。女性のいる部屋は、天井だけでなく壁、そして床に至るまで無数の星を散りばめたように輝いている。その中央には根が天井から床に突き抜けている。不思議なことに本来下に広がるはずの根が逆に上へと広がっていた。――キラッ。

「ぅおっ! なんだお前?!」

 星空のような壁の一点が眩く光ったと思うと、その光は徐々に大きくなり人ひとりが通れる大きさになると、その奥から長髪の男が現れた。部屋に誰もいないと思い込んでいたようで酷く驚いたようだ。

「ちょっとーそんなに驚かなくってもいいじゃないですか。ファイス室長」

「あぁそうだな。すまん……ゴホン。で、お前ここで何してるんだ?」

 ファイス室長と呼ばれた男はズレた眼鏡のようなものを掛け直しながら落ち着いた調子で尋ねる。男の頭上にも輪があったが女性のそれよりも輝きが強い。

「私ならたった今重大な任務を終えたところです」

 女性はどうだ、と言わんばかりにふんぞり返って答える。

「重大な任務? と言うと?」

「送り忘れの魂を送ったんです。なぜかここにあって……」

「お、おいまさかそれ刻印が入ってなかったか?!」

 ファイスは女性の肩を食い気味に掴む。

「は、はい! ですが間違っていたようで予定通り()()()に直しました」

 それを聞いたファイスの顔色が一気に青ざめる。額に汗が滲み、眼鏡はまたズレた。

「お前、やってくれたな」

「え」

「あれが……どれほど重要な(もの)か分かっているのか!! クソッ……!!」

 先ほどまでの様子からは想像できない激情。全身から怒りと焦りが滲み出ている。それを見て事の重大さを察したのか女性の顔にも焦りが現れる。

「貴様、責任を取ってもらうぞ!! これは貴様の責任だからな!! いいか!! 早急に、急いで、はやく、今すぐにあれを回収してこい!!」

「しょっ、承知しました!…………あの〜でしたら本物の勇者の魂はどこなんでしょうか?」

 女性は緊急事態だと理解しながらも未だ残る疑問を猛獣に触れるかのようにおそるおそる口にした。

「……それなら私がとっくに送っている」

 ひと通り怒って落ち着いたのか猛獣はただ一言、彼女にトドメを刺した。


「いいい行ってきまァァす!!」

俺・士堂慧唯・・・主人公。大学生。人の助けになりたいと思っているが行動することができないでいる。


通り魔・・・主人公を殺害。その後消息不明。


女性・・・明らかに人ではないようで、主人公に何かを施した。


ファイス室長・・・女性の上司的存在。冷静で落ち着いて見えるが意外と感情豊か。

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