表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】魔女ヘテラは、聖女への復讐を完遂する  作者: 不揃いな爪
08. 希望は眠る、復讐が目を覚ます
59/75

08-05 希望は眠る、復讐が目を覚ます

「フォルド、お前はまだ勇者の夢をまだ見ているようだな。ならば私が引導を渡してやろう」


 レタリエの紋章が魔力を帯び始め、攻撃態勢を取る。

 それに対しフォルドも構えていた大剣を、大きく振りかぶった。


「エスター、行くぞ」

「あ、あぁ」


 戦闘が始まってしまえば、私たちに出る幕はない。

 私は戦いに目を取られているエスターに声を掛けて、城の奥へと向かっていく。


「魔力を辿れば、たどり着けるかな。魔力汚染がより酷い上の階にいると思うけど」

「だが階段はどこも酷い状態だ」


 上の階から禍々しい魔力を感じるというのに、とても通り抜けられる状態ではない。

 汚染された街のように、けれどより濃度の高い魔王の魔力が階段を塗りつぶしていた。


「でも、やることは変わらない」

「そうだな。原因を特定して、毒薬で殺すだけだ」


 今までの行程で、必要なものは既に揃っている。

 後は魔王の魔力が流れ出しているところを特定し、作った浄化薬を叩き込んでやればいい。

 あとはイノスの無事を、祈るだけだ。


(無事でいてくれ、イノス)


 イノスが魔王として覚醒してから、既に一昼夜経過してしまっている。

 こんな異常な魔力を垂れ流していては、身体が持たない可能性もあった。


(あの時の話も、ちゃんとしなきゃいけないしな)


 イノスがカルティに刺される直前、私はイノスに問いただされていた。

 あの時に逃げてしまった自覚はある、だからそのことについて話さなければいけない。

 それも思い出しながら、私はエスターと通れそうな階段がないか見てまわっていく。




「ここから階段が魔力汚染されているな」

「じゃあさっきの薬を掛けるか、でもさっきより時間が掛かりそうだ」


 ざばざばと何本かまとめて浄化薬を流し込んでいるが、効果は薄い。

 しかしこれ以上できることはないので、少しでも早く効いてくれることを願う。


(やっぱり、イノスに近づいているんだな)


 少しずつ濃くなっていく魔力の気配を、よりはっきりと感じられるようになっていた。

 姿こそ見えないが、上階に魔王がいるのだという事が分かる。


 そう考えていると、ふいに背後から声をかけられた。


「二人とも、大人しくするように」

「っ、もう追ってきたのか」


 振り向くと、音もなくレタリエが追いついてきていた。

 どうやら彼は足音を消す魔法を使っているようで、気づけなかった。

 レタリエはこちらに、どこか哀れむように話しかけてくる。


「これから紋章保持者は、直接私が保護する。だからもう、逃げまわるのはやめなさい」

「アンタがまとめてるはずの連中にも襲われているから、信用できない」


 しかも教会所属なのに魔王まで抱え込んでいた人だ、信じられる理由がない。

 すると今度は、私の方を向いて話し掛けてきた。

 まるで警戒を緩めるように、優しげな雰囲気すら見せて。


「それは私の考えの甘さが招いたものだ。彼らの処断は約束しよう」

「……?」


 レタリエの言葉に、違和感を感じる。

 おかしい、なんでこの人は紋章保持者より私たちを優先したんだ。


(いくら他者に害を成したとはいえ、盲目的に囲い込んでいた人々より私たちを信じるか? 私達に、そこまでの親交はないのに)


 今までの言動を取り繕うにしたって、急な気がする。

 けれどそれを指摘する前に、不気味さに耐えきれなくなったエスターが前に出た。


「お、俺たちに近づくな!」

「エスター、無茶をするな」


 私でも分かる、エスターが持つ剣は震えてる。

 昨夜は私を直接害した人間だから攻撃できたのだろうが、今はまだその段階ではない。

 だからレタリエも、その姿を鼻で笑っている。


「全く敵意が伝わらない。どう怯えろというんだ」


 確かにその通りだ、彼からは殺気など微塵も感じられない。

 子供に玩具の武器を向けられた大人のように、レタリエは素手で剣の切っ先を掴んで逸らす。


「お前にこれは、似合わない」

(剣が、溶けた)


 紋章の魔法を使ったのか、砂のようにさらさらと剣が崩れていく。

 そしてレタリエは、エスターの手から柄だけになった剣すら取り上げた。


「複数の紋章による魔法だ、他にも色々なことができるぞ」


 対策方法が一つならともかく、こうも多彩な攻撃を提示されると打つ手がなくなる。

 いや、実は理論的には可能なのだが、今の私にそれはできない。

 だから今、私たちは詰んでいた。


「お前達はもう戦わなくていい。私がこれから、敵意も力もない世界にするから」


 優しく、諭すような口調でレタリエは語りかけてくる。

 だがそれがかえって、恐怖心を煽られた。


 しかし近づいてきたレタリエの動きが、あと少しで私たちに届くというところで止まる。

 レタリエの背後を見ると、そこには傷だらけのフォルドが立っていた。


「コイツの話は聞かなくていい」

「先生!」


 突然現れたフォルドは、荒い息のままレタリエの腕を握って引き留めている。

 しかしレタリエに相当攻撃されたようで、余裕があるようには見えなかった。


「その勇者気取りをやめろ、フォルド。私だってもう戦える」


 会話を途中で遮られたレタリエが不機嫌そうに、掴まれた腕を振りほどこうとする。

 しかし彼の次の言葉で、私とエスターは凍りついた。


「私はもう、力のない癒しの一族ではない」

「え」

(レタリエがエスターと同じ、癒しの一族?)


 どういうことだとエスターの方を見るも、彼も初耳だったらしく呆然としている。

 そんな私たちの様子を気にせず、二人の会話は続いていく。


「紋章に呪われた男、すぐに解放してやる」

「呪われているのはお前だ。お前こそ、もう戦う理由はない」


 お互いの主張は、まるで噛み合っていない。

 けれど二人とも真剣で、決して譲るつもりがない事だけは伝わってきた。


「現に攻撃が通らないだろう。勇者の紋章さえあれば、魔王の魔力を持つ私に傷を負わせられたのに」

「後は歳だよ、もう誤魔化しが効かない」


 こんな状態だというのにまたフォルドが、いつもの口癖を言っている。

 しかしレタリエの力の方が勝っているようで、掴まれている腕も徐々に振り解かれようとしていた。


(やっぱり魔力の供給を断たないと、話にならないな)


 正面からレタリエを攻撃してみても、有効打になる気がしない。

 いっそレタリエがフォルドに気を取られているうちに、一か八かで奇襲を仕掛けてみるべきか。

 どうしたものかと考えていると、エスターが私の服の裾を引っ張ってきた。


「ヘテラ、階段が通れるようになってる。先生が気をひいてる間に、こっそり行こう」

「! ……あぁ、分かった」


 揉めているうちに、浄化薬は階段を通れるようにしていた。

 それに今なら気付かれずに、この場を抜け出せる。


 そうと決まれば迷う必要はない、私は小声で返事をして階段へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ