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07-04 誰が為の戦い




 それから私たちはいくつもの宿場町を抜け、魔界との国境へとたどり着いた。


「大きな街だな」

「魔界に入る為の街だからね、宿泊施設とかは結構充実してるよ」


 関所である立派な門を中心として、その周りには多くの建物が並んでいる。

 そのどれもが、魔族が営む店ばかりだ。

 一応まだ人間側の領土なのだがここには寄り付かないため、実質魔族の土地となっているのだろう。


(せめて紋章の器が警護しているのかと思ったが、見当たらないな)


 それか魔力を持つ同族として、魔族に取り込まれてしまったか。

 傍若無人な異種族の人間に従っているのであれば、そうなるのは不思議じゃない。

 それでも攻め入ってこないのは中央まで距離があることと、さすがに人間の世界を落とすのは簡単ではないということだろうか。


 「あとは医療機関と、軍の関係者っぽいのも結構いるな」

 「一応国境だからね。じゃあ入国手続きしに行こうか」


 馬車を降りた私たちは、巨大な門へと向かっていく。

 そこまでの道なりには露店が並んでいて、下手な人間の街よりも活気があった。


「魔王ならすぐ入れるんじゃないのか」

「身分を偽って出国してるから無理だよ。力のない魔王なんてめんど「イノス様?」」


 イノスと話をしながら歩いていると、突然声をかけられた。

 振り向くとそこには背の高い角の生えた女性が立っていて、イノスを見て驚いていた。


「……なんでいるのさ」

「イノス様、やっぱりイノス様ですね!」


 一応正体を隠しているイノスを知っているという事は、この女性は魔王の関係者か。

 しかしイノスは微妙に嫌そうな顔をしており、だからこそ近しい関係性だというのも分かった。


「彼女は?」

「僕の親代わり。こっそり出てきちゃったから、後でめちゃくちゃ怒られる」


 女性のことを尋ねてみると、イノスは諦めたようにそう言った。

 元々無邪気な少年という印象を受けていたが、今は完全にふてくされた子供だ。


「心配したんですからね! 連絡も寄越さないから、どうしてるかと」

「魔王としてできることをやってただけだよ、それに僕が死んだって次代に移るだけでしょ」

「なんてことを言うんですか!」

(怒り方がフォルドに似てるな)


 保護者と言うものは、どこも似たようなものなのだろうか。

 元勇者の男も怒ると、このような態度になることが多かった。


「で、この方は?」

「今代魔女のヘテラちゃん、誘拐してきた」


 イノスの紹介の仕方に思うところはあったが、今は置いておくことにする。

 彼女の視線が、私に向いていたことに気付いたからだ。


「そうですか、では魔界で保護いたしましょう。これからよろしくお願いしますね」

「……どうも、よろしくお願いします」


 そういうと女性は再びイノスに向き合った。

 拍子抜けするほど反応されず、逆に驚く。


(やっぱり魔女も魔族から見れば、聖害病患者とあまり違いはないのか)


 完全に今の女性の目は、息子が友達を連れてきたくらいの感じだった。

 今も彼女はイノスに掛かりきりで、私の方を見ていない。


「では入国の手続きをしますので、少々お待ちください。イノス様は少々話があります」




「ヘテラちゃん、疲れたよー」

「お疲れ」


 一通り怒られたイノスが、ようやく私の方へ戻ってくる。

 女性も小言を言って満足したのか、門の方へ駆けていった。


「仲いいな」

「うん、力のない僕を大切にしてくれるいい人たち。だからこそ報いたいんだ」


 それは魔王の本能的な感情も含まれているかもしれないが、それでもイノスの本心だろう。

 少し照れながら、それでも誇らしげにしている姿は微笑ましい。


「分かる、大切にしてくれる人には報いたいよな」

「その為には人間達を滅ぼさないといけないんだけどね」


 彼の目的も結局はそこに戻るが、私としてはむしろ望むところだ。

 本当に人間を滅ぼす機会があるなら、手を組んでもいいと思っている。


「もう私は人間が嫌いだし、そこは好きにしてくれ」

「関係ない人たちは、あんまり巻き込みたくないんだよ。まぁもう僕が手を下さなくても良いから、あんまり関係ない話だけどね」


 そういうとイノスは門に並んでいる人たちとは、少し離れて固まっている人を指さす。

 そこには白衣を着た魔族もおり、角や黒い翼が生えた人達に何かをしていた。


「見て。あそこに並んでるのは、みんな聖害病患者だ」

「傷を治しているのか?」

「ううん、違うよ」


 最初は医者の魔族に病を治してもらっていたのかと思ったが、それは勘違いった。

 確かに患者の表情は楽になっているが、異端の証はそのままだ。


「彼らを体内の魔力に適合させているんだ。そうすればもう治らないけど、魔族の世界で平和に暮らしていけるから」

「緩やかに、人間の世界が終わっていってるな」


 全然悲しいとは思わない、魔女として扱われてそういう感情は死んだから。

 どちらかというと、彼らが救済されることに安堵する。


(それよりエスターとフォルドは大丈夫だろうか。姿が見えないから、気になって仕方ない)


 暴徒から逃れたフォルドは、エスターを迎えにいっているはずだ。

 エスターに何かあればフォルドが暴れるのは、聖女破門事件の際に既に知れ渡っている。

 だからそういう意味での心配はしていないが。


「ねえ、また別のこと考えてない?」


 ぶらぶらと二人で話しながら歩いていると、いつの間にか人気のない広場に来ていた。

 そして急に立ち止まったイノスは、少しぶすくれた顔で私を見ている。

 先ほどまで不機嫌ではなかったのに、一体どうしたというのか。


「エスターとフォルドのことを考えてた」

「僕といるときは、僕のこと見てよ」

(さすがに失礼だったか)


 イノスのことを忘れていたわけじゃないが、意識が他に向いたのは事実だ。

 だが謝る前に、彼は私に近づいてきた。


「ねぇヘテラちゃん、どうして僕が君をさらったのか考えて」

「仲間が欲しかったんだろ」


 これは獣に襲われた夜にエスターが言っていたことでもある。

 あの時の私は復讐心に囚われていたせいで気づけなかったが、私がずっと願っていたことでもあった。

 しかしイノスは私の言葉に、あからさまな不満を示した。


「それもそうだけど。本当に分からな」

「……イノス?」


 最初はどすりと鈍い音が聞こえ、次にイノスが黙り込むと、唇から血を流した。

 そして崩れ落ちる彼の背後から、いるはずのない女が現れる。


「久しぶりね、ヘテラ」

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