06-09 聖なる病と破門騒動【番外編05】
「イノス、領主、この間の礼をしたいんだが何がいい?」
先日カルティ追放の件で力を貸してくれた二人に礼をするため、私は二人に聞いてみる。
イノスは教会からの依頼配達、領主は私に薬を貰う為、会う頻度が増えていた。
「直接聞くんだ、それ」
「そうしたほうが、期待とのズレがない」
サプライズは趣味じゃない。
下手に考えて喜ばないものを渡すより、欲しいものを聞いた方が確実だ。
「じゃあありがたく提案に乗りましょうか」
二人は顔を見合わせ少し考えると、先に口を開いたのは領主だった。
やはり彼は判断が早いタイプのようだ。
「意外。領主さんは遠慮する感じだと思ってた」
「そうでもありませんよ」
敬語なので慎ましやかに見えるが、率先して秘宝の石を砕いていたことから行動力はあるといえる。
肝心な時に、ちゃんと重要な部分を持っていける人間だ。
そして少し出遅れたものの、イノスも考えが決まったらしい。
「じゃあ僕とデートしようよ、ヘテラちゃん」
「そ、それはダメだ!」
やりとりを見ていたエスターが、イノスが言い終わる前に慌てて遮る。
だがそれは私だってそれは却下するつもりだ。
もちろんイノスは冗談だろうが、下手に了承するにも問題がある。
「恋人じゃないのに、そんなことするか」
「えー?」
だがイノスも通るとは思っていなかったようで、簡単に引き下がった。
悪戯を好む性格だから、じゃれついていただけだろう。
そして今度は領主が似たような、けれど常識的な提案をしてくる。
「では私に街の案内をしてくださいませんか? あまり街には出たことがないんで気になるんです」
「いいぞ、いつにする?」
領主の提案を了承した私は、すぐに次の予定を決めようとする。
しかしイノスが、横から口を挟んできた。
「なんで!? 僕は断ったのに!」
間髪入れずに了承したことが、イノスにとって納得いかない様子だ。
だが行われる行動がほぼ一緒だとしても、言い方で対応が違うのは当然である。
「領主のはただの案内だからだ」
「言い方が違うだけでデートだよ! 騙されないで!」
ぎゃいぎゃいとイノスは騒いでいるが、領主が私を騙すメリットはない。
そもそも彼が私に持っている大半の感情は恩義で合って、恋愛感情じゃないのだから。
「騙すってなんだ」
「領主さん、絶対わかってて言ってるよね?」
「さぁ、どうでしょうね」
恐らく領主に恋愛感情はないだろうが、もしかしたらイノスよりずっと悪戯好きな性格かもしれない。
はぐらかす領主の表情は穏やかだが分かりづらく、その真意を読み取ることは出来なかった。
「もういい、僕もついてくからねっ! エスターくんも!」
痺れを切らしたイノスが、黙ってみていたエスターの腕を掴んで味方に引き入れる。
急に話題に引きずり込まれたエスターは、目を白黒させていた。
「俺もいいの?」
「えぇ、もちろん。仲間はずれにはしませんよ」
おどおどと問うエスターに、領主が笑顔で答える。
今回エスターは二人に迷惑を掛けてしまった側なので、会話に入りづらかったようだ。
(私もエスターを一人にする気はなかったから、どこかで会話に入れるつもりだったが)
その手間も省けて助かる。
だがそこで一つ気になることを思い出した。
「イノス、仕事はどうするんだ」
今日もイノスが私の元に訪れた理由の半分は、教会の依頼絡みだ。
聖女追放後は更に仕事が増えたようで、いつ休んでいるのかと問いたくなる動きようだった。
「サボっちゃえばいいんじゃない?」
「珍しいな、割と真面目に仕事してると思ってたが」
もはや全てが嫌になったのか、投げやりにイノスから答えが返ってくる。
いつもならもっと上手く仕事を捌いている印象だったが、今回は相当疲れているらしい。
「息抜きですよ。働き通しみたいですし、たまにはいいんじゃありませんか?」
「うん、っていうかちゃんと休み取るよ」
少し暴走しすぎたと感じたのか、領主の言葉にイノスが言葉の攻撃力を下げる。
教会で会うことが多いのか、この二人の仲も比較的良好に見えた。
「じゃあ礼は街の案内でいいか? 正直イノスの方が詳しそうだが」
「でもいつも一人か仕事で行ってたから、新鮮で面白いと思うな。領主さんの意見に乗らないと置いてかれちゃうし」
そう言いながら、私達は遊ぶ日程や行きたい場所を話し合っていく。
今遊びに行く予定を立てているのはいつも買い出しに出ている街ではなく、少し遠いが栄えた街だった。
「みんなで遊びに行くの、楽しみだね」
イノスが楽しげに笑うと、それにつられて皆の顔にも笑みが浮かぶ。
それは気心の知れた友達と遊ぶ約束を交わすような、そんな時間だった。
6章完結です、ここまで見ていただいてありがとうございます!
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