06-08 聖なる病と破門騒動
「お前やっぱり傷つけられてたのか!」
レタリエに指摘されたエスターは、思わず体の一部を隠した。
相変わらず、嘘が下手だ。
そしてエスターの怪我に気づいたフォルドは、再び怒りの形相を浮かべて彼に詰め寄った。
「大丈夫だよ、先生。自分で治してるし」
彼はそういうが、必死に体を隠しているところを見るに治しきれなかったのだろう。
カルティの荒れようを見るに、八つ当たりされた可能性が高い。
「やっぱり追いかけて殺すか、先生」
「ヘテラ?!」
半分以上は本気だ。
計画を練っての復讐などと言わず、機会があれば積極的に殺っていくべきだろう。
フォルドも真顔で、私の言葉に頷いている。
「俺は一向に構わん」
「二人とも大丈夫だって! 俺、そこまで弱くないって!」
フォルドと私の言葉を真に受けて、エスターは慌てて止めようとしている。
そんな私達を眺めていたレタリエだが、後片付けを終えたイノスに声を掛けられて振り向いた。
「レタリエ。もう時間でしょ、行くよ」
「……あぁ」
聖女派閥と違って、まともに働いている彼らは忙しいのだろう。
レタリエは一瞬だけこちらを見た後、すぐに私達に背を向けて部屋から出ていった。
「じゃあねー、ヘテラちゃん」
「私もそろそろお暇しましょう、では」
協力してくれたイノスと領主も、それぞれ手を振って部屋から出ていく。
この二人は今回本当に助けてくれた、後日何らかの礼をすべきだろう。
「二人とも、助かった。ありがとう」
改めて二人に頭を下げると、エスターとフォルドもそれに倣う。
イノスは力になれて良かったと笑い、領主はまた困りごとがあったら頼ってほしいと言ってくれた。
「とりあえず、帰るか」
二人が出て行った扉を見つめながら、フォルドが呟く。
そうだ、まずは家に帰ろう。
ここ数日はずっと落ち着かなくて、家にいる気がしなかったから。
「エスター、もう大丈夫だからな」
そう言いながら、私はエスターの手をつないでやる。
すると少しだけ泣きそうになりながらも、あちらから握り返してきた。
少し赤くなった顔は涙をこらえているせいだろうから、今回は指摘しないでやることにする。
「よしエスター。傷を見せろ、話はそれからだ」
「そうだな、まずは服を脱げ」
安寧の家に戻った私とフォルドは、早速エスターの体を検分する。
まだ痛む部分があるなら、今のうちに治療しておきたかった。
けれどさきほどまでおとなしかったエスターは、打って変わって抵抗する。
「だから自分で治せるって! 頼むから剥かないでくれ!」
「……待てエスター、なんだこの傷」
あまりに暴れるので、消毒液を直接かけてやろうとしていた手が止まる。
傷がないか髪をかき分けて確認していた首筋に、火傷の跡のようなものが残っていた。
(拷問でも受けたか?)
転生したあの日に押し釣られた焼き印が頭をよぎり、真顔になる。
だがフォルドが首を横に振り、これは違うと訂正した。
「あぁ、それは前からあるやつだ。今回の傷じゃない」
「フォルド、なにか知っているか? 」
そういえば獣に襲われた日に光っていた場所でもある。
あの時は紋章の輝きだと思っていたが、魔物についていたものよりもずっと小さい。
「……いや。俺が引き取った時にはもうついていた、なにかは知らん」
「じゃあいいか」
普通の傷でないことは確かだが、長年一緒にいるフォルドが知らないのであれば私が知る術はない。
とりあえず今は、傷ついたエスターの治療を優先しなければならなかった。
「私が触ると変質するから、フォルド頼む」
「分かった」
消毒液は菌を殺すので問題ないが、回復させる薬に私は触れられない。
だからこれ以上は不慣れでも、フォルドに任せるしかなかった。
「痛い痛い痛い! …………というかヘテラ、悪いけど恥ずかしいから出ててくれないか?」
「今更なにいってるんだ。第一お前も私の半裸見てるだろ」
私は保護された直後にほぼ全裸に剥かれて、治療を受けている。
それをどうこう言う気はないが、自分が治療を受ける側になって恥ずかしいと言われても反応に困った。
「そ、それは医療者として」
「分かった分かった、私がここにいても役に立たないしな」
けれど私はもう精神が壊れかけているが、エスターはまともな青少年だ。
なんだったらこの家に引きこもっていた分、実年齢への成長はこれからかもしれない。
「心配してくれてるのは分かってる、けど先生と話したいこともあるんだ」
「あぁ、じゃあ部屋に戻るよ」
エスターの主張が嘘か本当かは分からないが、私は大人しく部屋を出る。
そして自分の部屋に戻ろうとした時、閉じかけた扉から話し声が耳に入ってきた。
「先生、俺――」
(必要のない盗み聞きは、趣味が悪いか)
そう考えた私は扉を完全に閉じて、自室へと足を向ける。
ぱたんと軽い音を立てて、空間は隔絶された。
今日は疲れた、もう早めに休んでしまおう。
(これで一安心か。いなくなったコンヴェルトは気になるが)
安寧の家に戻る前に、コンヴェルトにカルティが追放になったことを連絡しようとした。
だが宿の部屋は既に引き払われていて、代わりに宿の主人がコンヴェルトからの手紙を預かっていた。
(手紙には治療の礼と、しばらく一人になりたいと書かれていた)
恐らくカルティがいなくなって、彼は一人になりたかったのだろう。
彼がどんな結論を出すのかは分からないし、今後会うのかどうかも分からない。
ただ、一つだけ言えることがあるとすれば。
(今度こそ、誰にも縛られずに生きてほしい)
幼馴染だからこそ、彼が優しくて責任感が強いことを知っている。
だから異世界に来ても、ずっとカルティの味方をしていたのも嫌々ながらも理解していた。
けれどそれを強要する親たちは、この世界にはいない。
だから一人の旧友として、ここからは穏やかに生きていてほしかった。




