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06-07 聖なる病と破門騒動

 そう言って私は、まごついていたエスターの前に立つ。

 すると彼はびくりと震えて、けれど視線は逸らさず私の目を見る。

 そしてそのまま、ゆっくりと頭を下げた。


「……ずっと嘘ついてごめん、ヘテラ」

「嘘はついてなかっただろ、それに脅されていたんだ。責める気はない」


 エスターは被害者だ、彼に罪などない。

 本人はカルティに加担したという負い目があるのだろうが、その理由は想像がつく。

 だから低い位置にある頭を、少し乱暴に撫でてやる。


「聖女に、薬の作成を手伝えって言われたんだ。そうじゃないとヘテラを酷い目に遭わせるって」

「そんなことだろうと思った」


 カルティは私への嫌がらせのためにエスターを利用しただけだ、それと薬作成に有利だから。

 それに今回は、フォルドがいないタイミングを狙われた。


「先生もいないし、俺は戦えない。なにかあったらと思うと、俺は従うことしかできなかった」


 それは仕方のないことだ、私もエスターも戦闘要員ではない。

 逆の立場だったら、私も同じように従ったかもしれない。


 だがそれでもエスターは、戦えない己を悔いている。


「俺も強くなりた「聖女はどこだ!!!」」


 一瞬、扉が爆発したのかと思った。

 それほどの勢いで、一人の男が怒りの形相を浮かべて飛び込んでくる。


「一足遅かったな、フォルド」

(レタリエって奴、フォルドの知り合いか?)


 今まで気づかなかったが、フォルドがレタリエに近づくと彼らが同年代であることに気づいた。

 そして挨拶もなく会話に入ったところから察するに、それなりに付き合いが長いようでもあった。


「レタリエ、聖女はどこにいった。八つ裂きにしてやる!」

「既に追放した、近々国外に放り出されるだろう」


 聖女が追放されたことは、もう貴族間では周知の事実となっている。

 だからカルティの行く先は、破滅しかないだろう。

 だがフォルドの怒りは収まらないようで、顔を真っ赤にしたままレタリエに喰ってかかっている。


「先生、おかえり!」

「すまない、肝心な時にいてやれなかった」


 荒れ狂うフォルドの気を逸らす為に、エスターが彼の前に躍り出る。

 彼の姿を見て正気を取り戻したのか、フォルドはようやく落ち着いてエスターの頭を撫でた。


「でも大丈夫だっただろ?」

「……そうだな。お前は強いよ、ヘテラ」


 私も前に出て無事であることを主張すると、フォルドは表情を和らげ、私の頭も一緒に撫でてくる。

 その様子を、レタリエが少しだけ目を丸くして見ていた。


「随分と仲がいいな、まるで本物の親子のようだ」

「冗談だろう。俺がやってるのは、お前の真似事だ。本物にはなれない」


 やはり話しぶりからして、旧知の仲なのだろうか。

 だがそれにしては、互いに遠慮のようななにかが見え隠れしている。


「お前の役割は元来、戦う事だ。それを考えればエスターをここまで育てただけでも上等だろう」

「それもそうだな」


 二人の間に流れる空気は穏やかなようでいて、けん制し合っているようにも見える。

 だが二人の話はそこで途切れ、代わりにレタリエの視線がエスターに移った。


「エスター、息災か?」

「え、あ、はい」

「なら良かった」


 それっきりレタリエは、エスターから視線を外す。

 しかし問われて放られたエスターの頭には、疑問符が浮かび続けている。


(エスター、知り合いか?)

(いや全く)


 こそこそと二人で話すが、どうにもエスターはレタリエと面識がないらしい。

 レタリエの方は一方的に彼を知っているようなので、エスターはひたすら困惑していた。


 だがレタリエはこれ以上私語を挟む気はないようで、すぐに別の話を切り出す。


「二人には今後教会側から、直接薬作成の助力を願うだろう。その時は是非、手を貸してほしい」

「分かった」


 レタリエの申し出を、私は快諾する。

 私はてっきり教会そのものが魔女を嫌っているのだと考えていたが、イノスの態度を見ていればそうではないことが分かっている。

 同じ紋章保持者保護部門のレタリエも今回の作戦に協力してくれたし、私が嫌いなのは聖女派閥のみなので、協力できる部分は積極的にしようと考えていた。


「それは俺もなのか?」

「あぁ、聖女のせいで薬の作り手は壊滅してる。聖女派閥で囲われていた癒しの一族は虫の息だ」


 レタリエの視線の先には、確かに息も絶え絶えな人達がいた。

 長いことカルティや聖女派閥にこき使われていたのだろう、その顔は死人のようだった。


「もちろん君たちを戦わせるようなことは避ける、今後は薬作成も我が部署に引き取られるから虐げられる心配もない」


 カルティは追放され、取り巻きも力を失った。

 聖女の庇護下にいた彼らは、今後レタリエの元で働くことになるだろう。

 それに私の処刑は回避された、結果としては上々だ。


「話は以上だ。特にエスターは、怪我の治療に専念してくれ」

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