06-04 聖なる病と破門騒動
「何でよ、ヘテラは関係ないでしょ! 第一魔女なのよ!」
私の名前が出た途端に、カルティが声を上げる。
だがその顔色は、怒りよりも焦りが強いように見えた。
「彼女が魔女であることは、もうみんな知っています。そしてそれが悪いことだと、もう思われていない。この閉じられた学園の中では違うのでしょうが」
暗に世間知らずと言われて、カルティの取り巻きたちが睨んでくる。
だがこの程度、最低難易度の魔物よりも怖くないので無視した。
その間にも、イノスは話を続ける。
「ヘテラ嬢は各地をまわり、依頼をこなし、人々を癒した。その結果、教会に依頼されたんです。むしろ怪しまれているのは聖女、あなたですよ」
イノスの言葉に目を丸くしながらも、カルティはまた騒ぎ立てる。
彼女はまだ、自分が優位にあると思っているようだ。
「どうして私が怪しまれなきゃいけないのよ!? 聖女の紋章を持っているのに!」
「役割を果たさない紋章など、ただの印だからです。本当に救いを求める人々は、証拠なんてどうでもいいんですよ」
確かに教会の認証は大きいだろう。
だがそれだけで認められるほど、世の中は単純ではない。
「人々を救う力の証明を。それができなければ、あなたは今度こそ追放される」
「うるさいわね! 第一アンタになんの権限があるのよ、私はアンタを教会から追放したはずよ!」
カルティがイノスに近づいて、掴みかかる。
けれどイノスはそれをものともせず、逆にカルティの腕を掴んで引き剥がした。
「先日、正式に却下されました。あなたの評判のせいで、派閥はほとんど力を失っていますから」
「使えない奴らばっかり……!」
悔しげに呟くカルティに、イノスはさらに追い打ちをかける。
そして私は、その様子をただ眺めていた。
「あなたに拒否権はありません。逃げれば紋章があろうと、教会はもうあなたを聖女扱いしない」
「……分かったわよ、参加すればいいんでしょ!」
カルティは吐き捨てるように言うと、私を一睨みして教室から出て行こうとする。
だがその前に、イノスが彼女の前に立ちふさがった。
「薬は他人に作らせないように。あくまで聖女としての力量測定も兼ねていますからね」
「手伝いくらいは多めに見なさい。行くわよ、エスター」
「あ、あぁ」
エスターを連れて、今度こそカルティは教室から出ていく。
だがその前に、通り過ぎていくエスターへ声を掛けた。
「必ず助ける」
「…………ごめん」
謝らなくていい、という言葉を掛ける時間はなかった。
だが今は救う意思があることを、伝えられただけで十分だ。
カルティはこちらを一度も振り返ることなく、廊下へと消えていく。
コンヴェルトの様子すら、窺うこともなく。
学園から戻ってきた私は、荒れ果てていた。
エスターがヘテラに囚われていることは分かっていたが、実際に見ると頭に血が上ってしまう。
「くそ、エスターがアイツの元にいるってだけで落ち着かない!」
「いいなあ、エスターくん。ヘテラちゃんにそんな風に思ってもらえて」
私の苛立ちを物ともせず、イノスは呑気にそんなことを言っている。
だがそれで、今まで聞きそびれていたことを思い出した。
「前から思っていたが、私に対するその好感度の高さは何なんだ」
「僕がヘテラちゃんの、運命の相手だったからだよ」
イノスはいつもの笑顔で、あっさりとそう答えた。
その言葉にまたごまかす気かと思えば、彼は少しだけ真面目な顔になる。
「多分、今はそうじゃないけどね。完全に諦めたわけでもないけど」
「頼むから、分かるように言ってくれ」
イノスの言いたいことが分からず、私は頭を抱える。
けれどやっぱり今日も、彼は真意を話す気はないらしい。
「それより、計画のことを話そうよ。この計画の要は僕らじゃないし」
「じゃあ気になることを言うな」
私としては忘れかけた頃に思い出させられるので、非常に消耗する話題だ。
だからさっさと解決したかったが、イノスに軽く流されてしまう。
「だって、君の気を引きたいんだもん」
自分の小動物的魅力を分かっている、あざとい表情。
けれどその中身はそんなに可愛いものではないことを、私はもう察していた。




