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06-03 聖なる病と破門騒動




 コンヴェルトの看病を行いながら、イノスの連絡を待つ。

 数日後にようやくイノスから、準備ができたという知らせが来た。


(向かうは学園の教室、聖女の領域)


 依頼の為だけに取っていた証明書が、ここに来て役に立つ。

 学園の門番が私に気づいて止めようとしたが、証明書のある人間を止めるわけにはいかない。


「ちょっと、魔女がなんの用「私の前に立つとは、呪われたいのか」」

「ひっ」


 さっそく絡んできた令嬢がいたものの、睨みつけるだけで逃げていった。

 私はその様子に満足しながら、校舎の中へと入っていく。


(臆病者。反撃されたくらいで怖気付くなら、最初から出てこなければいいのに)


 そう思いながらも、私は足を止めることなく進んでいく。


「魔女、ここにアンタの居場所は「この毒で、顔を爛れさせてやろうか」」

「「「きゃあああああああ」」」


 出した薬は解毒薬だったが生徒たちに分かるはずもなく、悲鳴を上げて散り散りになる。

 それを尻目に見ながら私は目的の場所に、まっすぐ向かっていく。


「すごい脅しだね、人がみんな引いていくよ」

「絡んでくる方が悪い」


 若干楽しそうに、口角を上げながらついてきたイノスが話しかけてくる。

 私はそれに素っ気なく返しつつ、階段を上がっていく。


「で、カルティの教室はどっちだ」

「こっち。一応、君の教室でもあるんだけどね」


 イノスは苦笑しつつ、豪奢な廊下の方へ私を案内する。

 この学園は聖女が通うに相応しい、煌びやかな装飾が施されていた。


「良く聖女と魔女を同じクラスにしたな」

「特殊な人は固めておいた方が管理しやすいし、ヘテラちゃんが来ることは想定してなかったから適当なんだよ」


 まぁ私も乗り込むことになるとは思っていなかったので、その言葉に納得する。

 そんな会話をしながら、私はカルティのいる教室の前に立つ。

 扉の向こうからは覚えのある姦しい声が聞こえてきて、カルティが元気にやっていると察せられた。


「じゃあ、開けるか」


 教室の中には見目の良い男子に囲まれた聖女がいて、こちらを驚いた顔で見ていた。

 そしてその顔は、見る見るうちに不快気なものへ変貌していった。


「魔女がなんでここにいるの? 空気が穢れるわ」

「なら聖なる力で浄化したらどうだ? 聖女様」


 私の言葉を聞いた途端、周囲の取り巻きたちが怒り出す。

 だがその中に一人、困惑した顔のエスターが立っていた。


「ヘテラ、なんでここに」

「迎えに来た、帰るぞ。エスター」


 私はそれだけ告げると、エスターに向かって手を差し伸べる。

 けれど彼は首を横に振って、拒絶を示した。


「ダメ、だ。俺は、帰れない」


 俯きがちに、けれどはっきりとエスターは拒否を示す。

 けれどそれは予想していた答えだったので、別に驚きもしなかった。


「違うでしょ、エスター。帰れないんじゃなくて、帰りたくなんでしょう?」

「そ、そうだ。俺は、聖女様に心酔してるから」


 カルティが優しく問いかければ、エスターは慌てたように答える。

 その瞳は少しだけ潤んでいて、本心を誤魔化すために嘘をついているのだと分かった。

 まぁ両方三文芝居すぎて、見抜くとかそれ以前の話な訳だが。


「本当に嘘が下手だな、疑う余地すらない」

「そもそも、元から疑ってなかったしね」


 私が呆れた声で呟けば、隣にいたイノスも同意するように頷く。

 そんな私たちの様子に、エスターは戸惑っていた。

 まるで怒られるのを待つ、子供のように。


「裏切られたとかって思わないの? 彼は、私に取られたのよ?」

「嘘が下手だというのを置いておいても、エスターはお前のものになんかなっていない。脅して言うことを聞かせてるだけだろう」


 カルティの問いに、私は即答する。

 するとカルティは愉快気に笑いだした。


「自由になったら、お前の元には残らない。違うか?」

「なら自由になんかさせなければいいのよ、そうしたら永遠に私の物だわ」


 造形そのものは可愛らしいもののその姿は聖女というより、悪魔のようだった。

 自分こそが法だと信じて疑わず、正義だと思い込んでいる醜悪そのもの。


「彼は私のものよ。それに私は各地に巡礼をして、認められた聖女なの。あの時は、村が報酬を出すのを渋って認めなかっただけ」


 だから私は悪くないと、カルティは堂々と宣言する。

 その態度に、私は思わず鼻で笑ってしまった。


「じゃあ、カルティには本当に聖女の力があるんだな」

「当然じゃない。聖女の紋章を持っているのよ、私は」


 煽りに引っかかったカルティが、私に鋭い視線を向ける。

 だがそれを返したのは私ではなく、後ろに控えていたイノスだった。


「なら依頼機関の依頼も難なくこなせるということですね」

「……依頼?」


 敬語に切り替えて話すイノスに、誰もが空気が変わったことを感じ取る。

 彼は今、教会からの使いとして話しているのが分かったから。

 そして同じくそれを理解したカルティの顔に、焦りの色が浮かんだ。


「聖女様には先日から依頼機関から教会を通して、とある貴族の病を治す薬の作成が依頼されています。遊び呆けているのでもなければ、あなたも知っているはずですが」


 イノスはそう言って、カルティの反応を見る。

 カルティは何か言おうとして口を開いたが、すぐに閉じた。

 イノスが言ったことが事実であると認めたのだろう。


 だが悪あがきを試みて、結局カルティは黙ることができなかった。


「で、伝達係がさぼってるだけでしょ! 私は聞いてないもの!」

「聖女派閥の威信を懸けた催しとなるので、散々言い聞かされたと思うんですけどね」


 その言葉に、カルティはわなわなと震えながら再び口を閉ざす。

 そしてイノスの勢いは止まらず、そのまま聖女に畳み掛けた。


「なんにせよ、期限は二日後。教会でとある貴族の病を治すようにとのことです。そしてこの催しには、ヘテラ嬢も参加します」

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