05-07 変異した村と役立たずの聖女【番外編04】
安寧の家に戻った私たちは、それぞれの生活に戻る。
私の日常は、相変わらず依頼に沿っての薬草作りに終始する。
しかし時々イノスが依頼を持って、直接私たちの元に訪れるようになった。
「ヘテラちゃんやエスターくんなら、この依頼はどう解決する?」
村での騒動解決後、イノスは私たちに意見を求めることが多くなった。
最近はフォルドがもらってくる学園からの依頼より、イノスを通した教会からの依頼が多くなってきている。
だが今回の依頼内容を聞いてみたが、どうも私たち向けだとは思えなかった。
「討伐依頼だから、俺たちじゃダメだと思うけど。それとも仮の話か?」
「まぁそうかな。解決できれば嬉しいけど」
不思議そうに依頼の内容を見ているエスターに、イノスは曖昧な笑みを浮かべる。
どうも彼としても、依頼の持ち込み先に困っているらしい。
「これ最近新聞に乗ってる奴か。攻撃力はあるけど、倒せないやつ」
「何だそれ」
そう言いながら机の上に投げ出された新聞をめくっていると、エスターがここだとページを止める。
そこには魔物ではなく、正体不明の影が目撃されているという記事が掲載されていた。
「物理攻撃が不可の幽霊みたいな奴でさ。魔法は聞くんだけど、一定以下の威力だと無効化される」
「じゃあ複数人の魔法使いで、一気に叩くのが正解じゃないか?」
とはいえ、そんな素人が数秒で思いつく対策はとっくに試しているはずだ。
それで解決しないから、イノスも別視点として私たちに相談しているのだろう。
「それはもうやってる、半分は正解だったよ。けど体力自体が馬鹿みたいにある奴で、一回で削らないと攻撃を上回る回復魔法でなかったことにされる」
「最悪だな」
思っていた以上面倒な相手のようで、思わず眉間にしわが寄る。
このパターンの敵は、攻撃を蓄積しての撃破が難しい。
「もっと最悪なのが、集まった魔法使いの魔力を喰らっていったこと。今は内側に溜めてるから、一定以上魔力が集まったら放出するんじゃないかって言われてる」
(どうなるか、想像したくもないな)
魔法により殺されるのか、それとも汚染されるのか。
どちらにせよ良い結末は待っていないだろう。
「まとめると物理攻撃は不可、魔法は効くけど相当威力がいるって感じか」
「魔法が使える紋章持ちは集められるだけ集めて魔法を撃ったし、あれ以上威力を上げると彼らが死ぬ。だから他の手を考えなきゃいけない」
イノスの言葉に、私たち三人は顔を見合わせる。
このままだと紋章持ちに犠牲を強いることになる、それを答えとするのはまだ避けたいところだ。
けれどその厄介な影を放置すれば、いずれ被害が出ることも目に見えている。
「それにこの魔物は各地にある紋章の器の郷を襲撃して、魔力を吸収してる。それを考えると魔力を含んだ薬を作ってる教会や、安寧の家も危ないと思う」
もしその話が本当なら、私たちも無関係ではない。
私とエスターは互いに目配せすると、机の上に一つの薬を用意した。
「なら限界まで魔力を吸収させて、内側から殺すのが良さそうだな」
「じゃあ魔力練り薬だ」
「なにそれ」
机に出された薬は粘度が高く、瓶を揺らしても中身は動かない。
怪しげな様子にイノスは首を傾げるが、すぐに興味深そうに覗き込んできた。
「一回で完成させない薬だな。基本的に同じ属性の要素でしかできないが、何度も要素を混ぜ合わせることで段階的に効果を上げていく」
「普通は人体の影響も考えると、強すぎて使えないんだけどな」
エスターが練り薬に魔石を落とすと、薬は音も立てず石を飲み込んだ。
だが体積は増えず、薬の色だけが濃くなっていく。
「とにかく大量に集められる要素を探して薬にし、ソイツに取り込ませる。それで人里離れた場所で強化した魔力増強薬を投げて、起爆すればいい」
「誘導も魔力を集めて道にすれば簡単そうだな。どうだ、イノス?」
非戦闘員の薬の作り手が思いつく作戦は、こんなものだ。
だがこの提案は、討伐の要件を過不足なく満たしたらしい。
「……本当に解決できると思わなかった」
「仕事の役に立ったなら良かった。じゃあ報酬に、その魔物の素材はまわしてくれよ」
そういうと、エスターと私はにやりと笑う。
その笑みをみたイノスは、合点がいったとばかりに肩をすくめた。
「妙にやる気あると思ったら、そういうことかー」
「私の見立てじゃ、魔力を吸収する要素を持った素材が手に入るんじゃないかと思ってる。そういうのは貴重だからな」
「防具とかにも使えるだろうから売って、高価な素材を買うのもありだな」
まだ貰ってもいない報酬の使い方を考えている私たちに、イノスは苦笑する。
だが抱えていた依頼が解決して気が楽になったのだろう、顔色が良くなっていた。
「分かったよ、終わったら二人に素材まわすね。協力ありがとう!」
今までの会話をまとめたイノスが、お礼を言いながら帰っていく。
……そしてそれを見送った私たちは、今度は真顔になって顔を見合わせた。
「……激務だな、本当」
「うん、あれは手伝いたくなるよな」
最初は無邪気だが警戒対象だった少年は、もはや私たちにとって気の置けない仲間になりつつある。
そんな彼からの頼みごとは、出来る限り手伝ってやりたいと思っていた。
だからイノスが依頼を持ち込んだ時は、私もエスターもできる限り力を尽くすようにしている。
私たち二人にとってイノスは、初めて外でできた友人でもあったから。
5章完結です、ここまで見ていただいてありがとうございます!
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