表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】魔女ヘテラは、聖女への復讐を完遂する  作者: 不揃いな爪
05.変異した村と役立たずの聖女
34/75

05-04 変異した村と役立たずの聖女




 それからしばらく、私とエスターは作業に没頭し続けた。

 その間動ける人たちは必死に薬を与え続け、なんとか病人の命をつなぎ止めている状態だった。


(だが作る薬の種類が多すぎて、速度が追いつかない!)


 薬の材料は有限だ、持ち込んだ物もあるが患者の数が想定より遥かに多い。

 しかし今から追加で薬草を取りに行くのは、あまりにも危険度が高過ぎた。


「患者ごとの症例を調べてきました、これを参考にしてください」

「近隣の店の在庫を全て持ってきました、使えるものは全て使ってください!」


 まだ動ける人員が、必要な物資を持ってきてくれる。

 けれどそれでも薬の消費は激しく、このままではすぐに底をついてしまう。


(戦場じみてきたな)


 本物の戦場など当然行ったことなどないが、空気感はなんとなく想像できる。

 そして予想通り、事態は急速に悪化していく。


「材料を乗せた馬車が、変異患者に襲撃されました!」

(くそ、解毒剤の材料がなくなる!)


 エスターも同じようなことを考えていたのか、血の気が引いていた。

 するとそこに、外の様子を見に行っていた領主が駆け込んでくる。

 その表情は、尋常ではない焦りを浮かばせていた。


「二つ先の村、戦線崩壊しました! 変異患者がこちらに向かっています!」

「まずい、もう戦える冒険者はいないぞ!」


 ざわりと動揺が広がって、部屋の温度が一気に下がった気がした。


「先日まであんなにいたのに」

「命の方が大事だろうからな、賞金もそう見込めない」


 この場にいる人々の顔色が悪くなり、どうすればいいか分からず混乱している。

 その中でフォルドに視線が集まるものの、本人はその願いに答える気がない。


「俺はここから動かんぞ、その為に依頼を断ったんだ」

「でも、先生」


 エスターの瞳が不安げに揺れる。

 しかしこうなったフォルドが簡単に動かないことを、私たちは知っている。


「最悪、お前達だけ連れて逃げるつもりだ。それは依頼の時にも言ってある」

「えぇ、承知しています」


 依頼時の契約上、領主からフォルドに討伐を頼むことはできない。

 でもこのままじゃ私たちは生き残れても、尋常ではない被害が出る。


(どうにか、ならないのか)


 別に村人に情があるわけじゃない、けれど依頼で来てるんだから半端な事はしたくなかった。

 結果としてできなかったとしても、諦めるのはここじゃない。


 だから考えろ、思考を止めるな。

 私は頭を回転させて、打開策を探し続ける。


 だが答えが出る前に、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「患者が回復したぞ!」


 追い詰められた頭は一瞬、なにを言われたのか分からなかった。

 だがその言葉を理解した瞬間、私たちは目覚めた患者のいる部屋に駆けつけた。


「良かった、一人でも助かって」

「他の奴らも起きたぞ!」


 部屋に入ると、そこには寝台の上で起き上がる人たちがいた。

 全員ではないものの、事態が好転したことは間違いない。


(容体が明らかに良くなってる、でも何が要因なんだ)


 患者に出ていた症状はばらばらだったため、共通して使っていた素材というものはない。

 それなのに突然治ったということは、他に理由がありそうだ。

 そして状況をまとめていたイノスが部屋に飛び込んできて、私たちに推測を告げてくる。


「ヘテラちゃんの薬を渡した人が、回復してる。エスターくんの薬も効いてるけど、きちんと起きれているのはヘテラちゃんの薬を服用した人だけだ!」

(でも私が渡した薬には、偽薬もあったはずだ)


 偽薬はどうしても材料が足りず、せめてもの気休めに渡した私の魔力のみを込めた水。

 だから当然、直接的な効果は期待できなかった。

 けれど私の疑問を察したイノスが、問う前に否定する。


「偽薬を渡した人も、回復してる」

「勘違いで治ったのか?」


 エスターの言葉は、私と疑問と同じものだった。

 しかしイノスは首を横に振って、患者の状況を記載した書類を見せてきた。


「ううん、変異や魔力暴走の症状が弱くなってる。これは勘違いじゃ治らない」

「じゃあなにかしらの効果があるのか……?」


 効果がないはずの偽薬に、なにかしらの効果があるのか。

 だがその答えを出す前に、また別の報告が飛び込んできた。


「一つ先の村が突破されました、すぐに変異患者がこの村へ来ます!」

「先生、頼むから行ってくれ!」


 領主の使いが、息せき切って駆けこんでくる。

 もう本当に猶予がないのは、誰もが分かっていた。


 だから私たちはどうにかフォルドを動かすため、全員で言葉を重ね始めた。


「フォルドが守ってくれれば、ここは安全だ」

「僕を怪しんでるのなら一緒に行きます。あなたより強い人はいないんですから、敵が僕でも魔物でも問題ないでしょう」


 フォルドはなにも言わない。

 だがその表情からは、確かに葛藤が見て取れた。


「なら一緒に移動するか? 俺達が目の届く所にいれば、先生は戦えるか?」

「それだとお前らが変異患者の前に出ることになるだろうが!」


 エスターの提案はフォルドに却下される、しかしエスターも引き下がらない。

 フォルドをなんとかして送り出すために、必死になって言葉を重ねる。


「そう、だから先生は戦ってきてくれ。俺達は固まってるし、ここにいるのはほとんど病人か病み上がりだよ」

「信じてもらえないと思いますけど、教会の人間は僕以外いないですよ。みんな逃げちゃいましたから」


 フォルドの心は揺れている、彼も元勇者だから本当は救える命を救いたいのだろう。

 けれど私たちと天秤にかけて、私たちを選んでくれている。


(けれど、あと一押しだ)


 フォルドの気持ちを踏みにじる気はない。

 だからこそ私たちは、彼が動きやすいように背中を押す。

 フォルドが動けば、私たちは生き残ることができるのだから。


「ここで暴れる人間は事前に私達で抑えられる。だからフォルド、外で戦ってきてくれ」


 予防は確実じゃない、要因もよく分からない、けれど効果は間違いなくあった。

 であれば、あとは外の問題だけだ。


 そして薬の実績を認めて、フォルドはついに覚悟を決めた。


「……分かった。だがもしお前らに何かがあれば俺はソイツを拷問して殺すし、お前らが死んだら俺も死ぬからな」

(全方位に脅しを掛けたな)


 覚悟を決めたフォルドは潜んでいるかもしれない敵と同時に、私たちにまで牽制してきた。

 だがそれでいい、これでフォルドは私たちのために戦わざるを得ない。


「じゃあ早く戻って来てくれよ、先生!」

「待ってろ、すぐ戻る!」


 大剣を持ったフォルドが、部屋から勢いよく走り去る。

 残された私たちは、これから起こる戦いに備えて再び準備を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ