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【完結済】魔女ヘテラは、聖女への復讐を完遂する  作者: 不揃いな爪
04.魔女の毒薬と級友を名乗る少年
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04-05 魔女の毒薬と級友を名乗る少年




 一通りの買い物を終えて、イノスと別れ、安寧の家に帰宅する。

 買ってもらった必需品をいったん玄関に置き、各々がまた動き出した。


「久々の外、楽しかったなー!」


 満足げなエスターが、ぐっと背伸びをする。

 確かに私もずっと警戒していて、気楽に外へ行くことはなかったので新鮮な気分だった。


「ヘテラ、他にも必要な物があったら遠慮せずに言えよ」

「あぁ、ありがとう」


 フォルドの心遣いに感謝しながら、私は荷物を持って自室へ戻る。

 するとエスターも荷物を持って、私の後ろについてきた。


「じゃあ荷物、部屋まで運ぶな!」

「助かる、エスター」


 そう重い物はないので運べないわけではないが、確かに一人でやるよりは楽だ。

 だから素直にエスターに感謝すると、助ける側だというのに満面の笑みを返してきた。


「任せろ!」

「じゃあ俺は飯の用意をしてくる」


 これ以上の人手は必要ないと感じたのだろう、フォルドが台所へと消える。

 その間に私達は部屋に辿り着き、早速荷ほどきを始めた。




 服の類をクローゼットへ、日用品を棚の中に収めていく。

 そしてコップなどの自室に必要ない物は、後で運ぶために別の場所へと固めていく。


(まぁ、こんなものだろう)


 完全に荷ほどきが終わったわけではないが、それでも邪魔にならない程度には片付けられた。

 清潔だが、がらんとしていた初日とは大違いだ。


「なぁ。模様替え終わったら、ヘテラの部屋に遊びに行ってもいいか?」

「別にいいけど、買ったものは全部見ただろ」


 エスターの言葉に、首を傾げる。

 今回買ったものに下着類などは含まれていなかったので、隠しているものもない。

 エスターだってそれは分かっているはずだが、一体どういうことだろうか。

 そう疑問を浮かべていると、彼は必死に話し始めた。


「そうだけど今までって何もなくて、いつでもいなくなれるような場所だったじゃん」

「確かにすぐいなくなれないくらい、色々買ってもらったな」


 エスターの話を聞いて、改めて部屋の中を見回す。

 基本的に買ってもらったものは必要最低限なものだが、なんだかんだで買ってもらった贅沢品も実はあった。

 けれどそれが、どうして部屋の訪問に繋がるのだろうか。


(あぁ、さっき買ってもらった菓子を食べたいのか)


 イノスが流行りのものと言って、フォルドが私達に買ってくれた色とりどりのお菓子が机には置かれている。

 エスターは先に食べきってしまっていたから、まだ食べたくて仕方がないのだろう。

 だがエスターが言いたいことは、全く違った。


「ヘテラの部屋に物が増えたことが嬉しいんだよ、今まではちょっと不安だったから」

(あぁ、怖かったのか)


 確かに今までの私の部屋に私物はほとんどなく、すぐ出て行っても大して困ることはなかった。

 だからあの夜に着の身着のままで出ていこうとしたのだから。


「お前がそれで安心するなら、部屋を見るくらい構わない」

「よっしゃ!」


 嬉しそうな声をあげて、エスターは両手を上げる。

 そしてそのままの勢いで、私に抱きついてきた。

 だがその行動は予想していたので、特に驚きもなく受け入れる。


(私ももう、すぐにここを出ようとは思わない。それを伝えていかないとな)




「つーことで、ヘテラが朝食作ってくれたぞ」

「今までも礼も兼ねてるし、これからは私も定期的に作る。エスターにはとても叶わないだろうが」


 朝、私は少しだけ早く起きて三人分の食事を作った。

 ちなみに今日のメニューは、パンと野菜スープといり卵だ。


「いやいや嬉しい! というか俺は長いこと引きこもってるから、料理うまくなっただけだって!」

「俺は種類が少ないしな」

(それは否定できない)


 言葉にはしないものの、フォルドが作る料理は本当に肉と卵だけだった

 彼の作った肉料理は美味しかったので文句はないが、同時にエスターの料理レパートリーが増えた理由も良く分かった。


「先生の料理好きだけど、本当にほぼ肉だからな……」

「うまいだろ、肉」


 エスターが若干げんなりしているが、フォルドに改善する気はないらしい。

 二人のやりとりを聞きながら、私はテーブルに皿を並べていく。

 そして全員で席につき、食事を始めた。




「じゃあそろそろ依頼の話をするぞ」

「待ってました!」


 食事が終わり、各々家事を完了させた後に、フォルドが話を切り出す。

 するとエスターが待ちきれないといった様子で、身を乗り出した。


「今回ヘテラに持ってきたのは、これだ」

「『アーランネの鱗粉を無効化するもの』?」


 渡された紙に書かれていた文字を、私は読み上げる。

 鱗粉と言うからには、虫に関する依頼なのだろうか。


「俺のと違って、随分曖昧な指示だな」


 そういうエスターの依頼書には、『中級回復薬を四つ』と明確な指示が記載されている。

 するとフォルドは、その質問を待っていたかのように説明を始めた。


「それがこの依頼の良いところだ。エスターの持っている依頼と違って不明瞭な分、解決できればどんな方法でも構わない」


 つまり対応できるのであれば、どういった手段でも構わないということだろう。

 そういう意味では、確かに毒という忌避されがちな私の力も受け入れられる可能性があった。


「ちなみにアーランネってのは植物と女の人が合わさったような姿の魔物だな」

「だが今回は変異種で、蝶の形をした眷属を飛ばしてくる。それがこれだ」


 フォルドが現代で言う写真のような絵を、私達に見せる。

 そこにはなぜかおぼろげになっている街と、その周りに舞う蝶のようなものが描写されていた。


「厄介なのはこの蝶が触れた場所は、魔力で汚染される。街がぼやけているのは、魔力に包まれているせいだ」

「うわあ……」


 フォルドの答えに、エスターが露骨に嫌そうな顔をする。

 汚染という言葉から察するに触れると病気になるか、最悪死ぬようなものなのだろう。


「アーランネに気づいた時は、辺り一帯が対策なしに近づけないほど汚染されていた。そこでこの依頼が出たってわけだな」


 人が近づけない程に悪化しているなら、確かに対処方法は限られる。

 単純な討伐じゃないからフォルドでも対応できず、私のところまでまわってきたのだろう。


「でも私はなにを作れば良いんだ? 作れるのは毒だけだぞ、無効化なんてできない」

「お前の毒は、他の毒を殺す。これを見てみろ」


 そう言われてばさりと机の上に出されたのは、毛皮だった。

 面積は机を覆い隠すほど大きく、そしてその色には見覚えがあった。


「家の周りをうろついていた魔物か」

「なんだこれ、焼印か?」


 私が確認した毛皮に対し、エスターがその一部を指差す。

 一見普通の動物の皮のように見えるが、エスターが指さした部分は明らかに違った。

 それは中心に焼け焦げたように黒くなっており、良く見ると見覚えのある紋章の形をしていた。


「紋章の偽印だな、形は聖女のものだ」

「フォルド、もしかして偽印をつけたものは操ったりできるのか」


 フォルドに向き直ると、彼は迷いなく頷く。

 これで獣の正体がはっきりした、魔物はカルティが意図的に放ったものだった。


「お前の思っている通り、これは聖女がけしかけたものだろうな」

「でもそれが、今回の依頼となんの関係があるんだ?」


 無害になった魔物の毛皮に触れながら、エスターは首を傾げる。

 それは私も同じ気持ちだったが、フォルドの説明を聞いて納得できた。


「この偽印は無効化されているんだ、ヘテラが作った毒によって」

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