表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】魔女ヘテラは、聖女への復讐を完遂する  作者: 不揃いな爪
04.魔女の毒薬と級友を名乗る少年
25/75

04-04 魔女の毒薬と級友を名乗る少年

 フォルドの問いに、イノスが短く答える。

 だが彼の言葉からは、苛立ちが強く感じられた。


「だから薬が不足してるのか」

「うん。魔族と戦うのに効かない薬が混じっていたら、それだけで戦線崩壊する可能性もある。なのに彼女は働かないんだ」


 イノスはカルティのことを、心底嫌いになっているようだ。

 しかしこれだけ少年が不満を訴えるということは、相当酷い状態なのだろうと想像がつく。


「やることといえば気に入らない令嬢へのいじめ、顔の良い男を取り巻きに勧誘する、聖女の身分をひけらかして豪遊、他にも」

「なんでそれ、聖女の立場を剥奪しないんだ」


 話を聞きながらできあがった書類を確認していたエスターが、不思議そうに首を傾げる。

 確かにその通りだ。いくらなんでも仕事をしていないのであれば、なんらかの処置をするべきだろう。

 するとイノスは困ったように笑い、肩をすくめた。


「やっぱり紋章に選ばれたというのが、大きい理由だよ。紋章を持つ者には、力が与えられるから」

「制御できなきゃ、逆に危ないだろ」


 エスターの正論に、私達は揃って同意を示す。

 するとイノスは、哀しそうな笑みを顔に浮かべた。


「それでも長年従ってきたことを変えるのは、難しいみたい。なんとかやってもらうしかないから、上は聖女の機嫌を損ねるなって」

(上司が動かないんじゃ、確かにどうしようもないな)


 組織というものは、大抵上の人間が下の人間に対して無関心だ。

 そして一度決まった方針を変えることは、よほどのことがない限りされない。


(コイツ無邪気なようでいて、内面は疲れ切っているな)


 もはや前世の駅で見た、サラリーマンの姿が脳裏に浮かぶ。

 その瞳は暗く濁っており、どこか諦めているように見えた。

 だが少しは発散できたのか、まだ元気にしゃべり始めている。


「ふふ、でもやっぱり会いに来て良かった。色々話を聞いてもらえたし」

「まあ、私も色々知れて良かった」


 学園内のことを知れる機会はこれからもほとんどない、そう考えればイノスは貴重な情報源だった。

 そしてふとカルティのことは聞いたものの、初日以降の幼馴染の様子を知らないことも思い出した。


「そういえば、カルティと一緒にいる男を知らないか? 同じ異世界転移者なんだが」

「あぁ、コンヴェルトくん? 良く聖女と喧嘩してるのは見てるよ」


 何でもない風にイノスは言うが、私はその内容に違和感を感じる。

 その情報は、私が持っている彼らの関係性と合わなかったから。


「そんな名前になったのか、アイツ。というか喧嘩? あの二人は仲がいいはずだが」


 知っている限り、前世の彼らは常に一緒に行動していた。

 それに喧嘩なんて、聞いたこともない。

 だがイノスの口ぶりでは、今は全く違うみたいだった。


「いや、全然仲良くないよ。それに彼は勇者の紋章が顕現しないって、見下されてるみたいで」

「え、勇者の紋章って先生持ってるんじゃないのか?」


 エスターが驚いた声をあげる、だがフォルドは特に隠すこともなく肯定した。


「正確には元勇者だ、俺は。先代魔王を殺した後、紋章は消えている」

「でも色んなとこ行って、魔物討伐とかしてるよな」

「紋章がなくても、魔物は殺せる」


 どうやらフォルドは、あまり紋章の有無を気にしていないらしい。

 外部の力を必要とせず戦えるということは、やはり相当な実力者なのだろう。


(……ん?)


 二人の会話の間でふと視線を感じて、辺りを見渡す。

 てっきり先ほどの受付嬢がエスターに視線を送っているのかと思ったが、違った。


「今代勇者がまだいないんだ、なら俺がやるしかないだろ」

「早く見つかるといいな、今代勇者」


 話し込んでいるフォルドとエスターは、まだ気づいていない。

 彼らを見ているのは、鋭い眼差しをしたイノスだった。

 だがそれも一瞬で、私が見ていることに気づくとまた柔らかい雰囲気に戻る。


(なんだ、今のイノスの表情は。けれど、なにに対してあの顔をしたのかが分からない)


 その笑顔にはどことなく違和感があった、まるで何かを隠しているような。

 しかしそれを問いただそうと言葉を発する前に、エスターの声に遮られる。


「ヘテラ、どうした?」

「いや、なんでもない」


 私が黙ったことに気づいたエスターが、声を掛けてくる。

 一瞬、私はイノスの異変を伝えようとしたが、思いとどまってやめた。


(理由が分からない以上、問いただすことはできないな。それに今は人数がいるから、下手なことはできないだろう)


 フォルドの見立てでは、イノスに攻撃的な行動を起こせる力はない。

 それに今は三人も固まっているのだから、万一があっても対処できる。

 なのでとりあえずは様子をみるだけにしておこうと考えた。


(今は気にしても、何もできないしな)


 結局、私はイノスが見せた変化について考えるのをやめる。

 そして特に何も起こらず、その日の買い物は終了した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ