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【完結済】魔女ヘテラは、聖女への復讐を完遂する  作者: 不揃いな爪
03.この世界で暮らす為の準備
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03-03 この世界で暮らす為の準備




 フォルドに呼ばれると、ようやくエスターは私から手を離す。

 二人で居間に降りると、朝とは思えない量と質の料理が山になっていた。


「朝からすごいな」

「先生に食事任せると、ほぼ肉だから……」


 机に並んでいるのは種類こそあるものの、確かにエスターが言うようにほぼ肉料理だ。

 おかげで机の上が、全体的に茶色い。


(ほとんど夕食だな)


 私が腹を壊した時より遥かに重い食事が、朝食として並んでいる。

 けれど今は、その方がいいのかもしれない。


「ヘテラは胃がまだダメか?」

「いや、もう大丈夫だ。それに力になるものが食べたかったからちょうど良かった」


 エスターが作ってくれた消化にいい食事を食べ、睡眠も取り、生死は賭けたが運動もした。

 ここに来た初日に比べれば、体調だって雲泥の差だ。


「どんどん食えよ、育ち盛りじゃなくても食事は活力だ」

「そうだな。……いただきます」


 私は気合いを入れて、並べられた食事を口に運ぶ。

 すると久しぶりに重い食事を摂ったせいだろうか、体中に力が溢れてくるような感覚を覚えた。


「うまいか?」

「あぁ」


 口に入れたものを噛みながら答えると、フォルドは満足そうに笑みを浮かべる。

 そして私をずっと見つめていたエスターに、視線を向けた。


「エスター、お前もさっさと食え。冷めるぞ」

「うん、分かってる」


 そう言いつつもまだエスターは食事に口をつけず、私を見つめている。

 恐らく、昨日のことがトラウマになっているのだろう。


(私が気持ち悪くならないか心配なのか、でも昨日まで食事もまともに取れていなかったからな)


 言ってしまえば状況が違うと思うのだが、それでも簡単に受け入れられるものでもないらしい。

 フォークを持ったものの、未だに彼の視線は山盛りの食事を私の間をうろついている。


「私は大丈夫だから、ほら」

「癒しの一族の悪い部分だな。怪我人や病人がいると、そっちに意識を持っていかれる」


 フォルドが更に肉を食卓に追加しながら、会話に参加する。

 その間にもエスターはじっと私の顔を見ていて、食事には手をつけていない。


(仕方ないな)


 いつまでも食事の様子を見られているのは、こっちだって落ち着かない。

 それにエスターだって、昨日動き回って腹が減っているはずだ。


「お前も食え、エスター」

「ん!?」


 私はフォークに刺していた肉を、エスターの口に突っ込んだ。

 いきなりの行動だったからか、エスターの目が大きく見開かれる。


「口に突っ込まれたくなかったら、自分で食え。もっと奥に押し込むぞ」

「やっちまえヘテラ」


 私の脅し文句を聞いたフォルドが、こちらも向かずに私を応援する。

 フォークを突っ込まれたエスターは慌てて口を動かし、肉を飲み込みながら首を縦に振った。


「ちょっと苦しかったけど、うまいな! ヘテラが食べさせてくれたし」

「今度は自分で食えよ」


 私の言葉にエスターはコクコクと何度もうなずき、やっと自分のペースで料理を食べ始める。

 それを確認してから、私も再び料理を食べ始めた。


「分かってるって、ヘテラがもう大丈夫だって分かったし」

「二人とも、空の皿をどけろ。追加だ」


 そうこうしているうちに、今度は炒り卵が大皿で追加される。

 ……うまそうなのは確かだが、これは何人前なのだろうか。


「うわっ、先生卵いくつ使ったんだ!?」

(……食い切れるのか、三人で)


 信じられないほど追加されていく食事に、二人して不安になる。

 だが、心配は不要だった。




(大人になると脂っこいものは、食べる量が減るって聞いたんだが)


 痩せぎすの男はそんなことを微塵も感じさせず、食卓について全ての皿を空にした。

 見慣れているはずのエスターもうんざりした表情をしている。


(けどまた、こんな食事をできるとはな)


 異世界についてから何度目かの食事になるが、この家に来るまで私は食事が嫌いになっていた。

 でも今は自分から進んでなにが食べたいか、選ぶくらいになっている。


(それに食べないと、復讐する力も出ないからな)


 事実としてこの家で食事をし始めてから、私の体調は驚くほど回復した。

 今なら自分が救い出されるまで、どれほど弱っていたかが分かる。


(だからこれも、意味のあることだ)


 そう思いながら私もフォルドにならって、また少しだけ肉に口をつける。

 朝からめちゃくちゃな重さだが、子供向けの甘い味も嫌いじゃない。



 けれどそれを見たフォルドが「足りなかったか」ととんでもない量の肉を皿に滑り込ませてきて、後悔するのは数秒後だった。

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