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【完結済】魔女ヘテラは、聖女への復讐を完遂する  作者: 不揃いな爪
03.この世界で暮らす為の準備
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03-02 この世界で暮らす為の準備

 エスターの性格では、私が処刑されたらショックを受けるのなんて分かりきっている。

 けれどこの男に、魔女の処刑を避けられるほど権限や力があるのかが分からなかった。


(結局今の私にとっても重要なのは、そこだしな)


 ここで一時の安らぎを得たとしても、時間が来て処刑されるなら意味はない。

 いつ処刑が起こるのかも分からないが、結局は回避できるか否かだけだ。


 そしてフォルドは正直に、私の問いに答えてくれた。


「難しいだろうな、魔女の処刑は民意だ。ここから一生出ないならともかく、外じゃどこに行っても探される」

(下手に嘘をつかれるよりは信頼できるか)


 言い方から察すれば、フォルドはここから出ない限り私を保護してくれるつもりらしい。

 エスターのことも加味すれば、きっと約束は守ってくれるだろう。


(けれど、まだ足りない)


 一番いいのは処刑の回避ではなく、処刑そのものを脅威に感じなくなることだ。

 そう考えれば、自ずと道は見えてくる。


「だがヘテラ、お前がここに篭っているのは無理だろう。完全には俺達を信用し切れない」

「あぁ、だから力が欲しい。全てを疑わなくて済むように」


 私が今、手に入れるべきは具体的な力だ。

 暴力でも脅し文句でも、使えるものであれば文句を言う気はない。


(今の私に使えるものは、毒だけだしな)


 昨日の夜に手に入れた、恐らく魔女の紋章が影響して作られる毒薬。

 けれどそれ以外にも、できれば手札が欲しい。


(現状は何かが起こる前に察知して、逃げるという手しか使えない。けれど今後ずっとこのままでもいられない)


 全てを疑い続けたところで、どこかで潰れるのは目に見えている。

 それに、悪意のないものは信じたい。

 私一人で生きるのには、限界があると分かったから。


「じゃあ今後の目標は決定したな。いったん休憩にして、そろそろ朝食にするか」

「そうだな、……あと起きてるのバレてるぞエスター」


 話の方向性が決まった私たちは、区切りがついたことで話を打ち切る。

 そして今まで動かなかった塊に私が指摘すると、びくりとして顔を上げた。


「……盗み聞きしてたんじゃなくて、いつ起きればいいのか分かんなかったんだよ」


 寝癖のついた髪を直しもせず、エスターは拗ねた顔で呟く。

 寝たふりをしていれば話が聞けると考えたのかもしれないが、どうでもいい。

 彼に話を聞かれたところで、もう警戒しようとも思わない。


「確かにこんだけ頭の上で話してたら普通に起きるな、というかそろそろ離せ」


 適当に同意しながら、起きているなら腕を話せと、抗議の声をあげる。

 でも彼はぼんやりしたまま、私を捕まえている手を解こうとはしない。


「うん」

「だから離せって」


 寝ぼけているのかと声を荒げようとしたが、その前にフォルドが口を開く。

 どこか諦めたような優しい声で、彼は小さく首を振った。


「もう少しそのままでいい、今日は俺が朝食を作る」

「先生、ありがとう!」


 フォルドの言葉を聞いたエスターはとたんに、私の頭を抱きしめたまま笑う。

 そしてフォルドは私にすまないな、と謝って部屋を出ていった。


(甘やかしすぎじゃないか)


 残された私はフォルドの後ろ姿を見ながら、軽くため息を吐く。

 長く二人しかここにいなかったから、距離感がおかしくなっているのかもしれない。

 私に害がなければ、どうでもいいけれど。


(それよりも、エスターを引き剥がさないとな)


 フォルドはそのままでいいと言っていたが、私はそうするつもりはない。

 確かに昨日彼を信じるとは言った、だがそれはずっと一緒にいるという意味ではない。


「エスター。昨日のことは感謝してるが、「もう一人で危ないところは行かないでくれよ」」


 私の言葉を遮るエスターに、思ったより強く反論を封じられてしまう。

 エスターは多分、私が何を言おうとしているのかをずっと察していた。

 彼は無邪気なように見えるが、他人が思っているよりはずっと思慮深かったようだ。


「昨日は運が良かったけど、死んでた可能性の方が高かったんだ」

「……少しは控える、私だって無駄死にしたい訳じゃない」


 図星なのは分かっているから、私はなんとなく言葉を続けにくくなる。

 自分に非があると分かっているからこそ、反応が鈍くなってしまう。


「信じてるからな、ヘテラ」

「あぁ、大丈夫だ」


 名前を呼ばれたことで反射的に返事をするが、エスターの声がいつもより少し低くてやりづらい。

 まるで、兄弟に怒られているみたいだと思う。


(コイツ、こういう釘の刺し方もできるのか)


 今までの態度からは想像できないくらいに真剣な声音に、正直戸惑う。

 別にエスターを信じていない訳ではないのだが、それをわざわざ言うのも面倒だ。


(とりあえず、今は離れてほしい)


 いつまでもひっつかれていると、身動きが取れなくて仕方がない。

 けれど今の空気だとそれを口に出すのも憚られてしまい、仕方なく彼の好きにさせるしかなかった。

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