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【完結済】魔女ヘテラは、聖女への復讐を完遂する  作者: 不揃いな爪
03.この世界で暮らす為の準備
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03-01 この世界で暮らす為の準備




(……暑い)


 暖かな日差しではない、別の熱のせいで目が覚める。

 まだ体もあまり動かせなかったが、察しはついていたので静かに目を開けて周りを見渡した。

 案の定寝台には、美女のような男が長い髪をまとって眠りについている。


(結局、抱きしめられたまま寝落ちしたのか。私は)


 いるのは分かっていたのに、あまりに美人な寝顔に一瞬心臓が止まりかける。

 隣で私を抱き抱えながら眠っているのは、昨夜共に戦ったエスターだった。


『エスター、ヘテラがまた逃げ出さないように見張っておけ』

『分かった、先生!』


 男女がどうのではなく、元々無防備な睡眠中に他人と寝るのは嫌だった。

 だが昨日はやらかした自覚があったので、大人しく彼らに従うことにした。

 そしてそのまま眠りにつき、今に至る。


(変な事はしないだろうと思っていたから、放置したが)


 本当にがっちりと抱き止めたまま、エスターは眠ったらしい。

 私を逃さないようにという事だろうが、ここまで密着する意味はあるのだろうか。


(まぁこの綺麗な大型犬はどうでもいい、それより問題はフォルドだな)


 視線を上げると、フォルドが部屋の入り口で寄りかかってこちらを見ていた。

 その表情は無に近く、何を考えているのか読み取れない。

 私が起きた事に気付くと彼は寝台まで近付き、私の目の前に立った。


「起きたか」


 フォルドの手が伸びる。

 思わず身構えたが、彼は私の頭に触れただけだった。

 頭を撫でられるなんて何年ぶりだろうとぼんやり思っている間に、彼の手によって髪が整えられていく。

 手慣れているようで、それもあっという間に終わってしまう。


「……オハヨウゴザイマス」

「ん、おはよう」


 後ろめたさもあって片言で挨拶すると、彼はわずかに微笑んで返事をした。

 私が起きている事を不思議には思ってないようだが、なぜこんなに優しいんだろうか。

 疑問を感じつつも、起き上がるために腕を動かそうとする。


 しかしそれは叶わなかった。


(くそ、全然離さない! なんなんだコイツ!)


 眠ったエスターにがっちり掴まれて、私は動けなかった。

 それを察してなのか、フォルドはため息をつくと首を横に振る。


「どうせ振り解くのは無理だろ、そのままの体制でいい」

「……分かった」


 仕方なくエスターを放置したまま、私はフォルドの話を聞く。

 寝っ転がったままだが、本人がいいと言っているので仕方がない。


「で、昨日お前がここを抜け出した理由は話せるか」

「なにをされるか分からなかったからだ」


 この問いに対しては即答する、答えが明確だったから。

 しかしフォルドはそれを聞くと、難しい顔をして黙ってしまった。

 何かを考え込んでいるようだが、やがて小さく口を開く。


「なるほど、保護だけじゃ安心する理由にならないか」

「それ以外には? 安心しろ、多少のことなら協力してやる」


 名目としては保護、じゃあ実際のところは?

 彼に聞いて素直に答えるかは分からなかったが、それでも聞かないよりマシだと思って問い返す。

 するとフォルドは視線をずらし、未だ眠り続けているエスターの方を指差した。


「そろそろコイツにも友人が必要だろうと思ってな」

「それだけか?」


 フォルドの言い分を信じるならこの青年の為に、歳の近い友人として私を招き入れたかったということらしい。

 だがもしそれが本当であるなら、私を選ぶのは見る目がないと言わざるを得ない。


(魔女である上に、そもそも性格が曲がっている)


 第一友人なら、同性の方が適任だ。

 しかしフォルドは私が考えていることが分かったのか、私が喋る前に竜を話す。


「案外条件が厳しんだよ。どこまで聞いているかは知らんが、エスターは癒しの一族の末裔だ」

「そういえばその一族、迫害されてるって言ってたな」


 それ自体は既に昨日、エスターから直接聞いている情報だ。

 だが理由は、それだけではないらしい。


「癒しの一族は人間じゃないからな。俺も癒しの一族ではないが、同じく人間じゃない」

「じゃあアンタらは人外か? とてもそうには見えないが」


 昨日馬鹿みたいな力で獣を蹂躙しているのを見たが、それだけだ。

 エスターもフォルドも、人の持つ特徴の中から逸脱している箇所は見当たらない。

 私は入念に二人を観察するが、それでも目ぼしいものはなにも見つからなかった。


「見た目は同じだ。だが俺達が生まれる理由は、人間と違って明確に存在する。紋章を付与するための、人型の器としてだ」

「紋章っていうと、私のこれみたいなものか」


 私は自分の胸部を指差し、魔女の紋章を指し示す。

 今は服に隠れているが、ここに何があるかを知らないはずがない。

 だがフォルドは同じものではない、と否定した。


「聖女や魔女の紋章とはまた違う。それ以外の派生した紋章が、器たちに付与されるんだ。魔王を倒す為にな」

(紋章ってのも、結構種類があるんだな)


 詳しいことはよく分からないが、それでも力を与える印に複数あって、役割も違うことは分かった。

 そしてフォルドの言葉に、私はそういえばと存在を思い出す。


「……やっぱり、魔王って本当にいるんだな」


 理解はしていたものの、当たり前に他者の口から出てきた言葉は未だ現実味がないもの。

 聖女や勇者もそうだが、中でも明らかに敵として定義された役職だった。


「あれは魔族の為に人間を殺す存在だ。それに対抗するため生み出されたのが俺たちだからな」

「なぁフォルド。考えたんだが、紋章って人間に直接与えたらダメなのか」


 聖女や魔女の紋章のように人に力を与えられるなら、器など作らず直接人間に与えた方が手間もない。

 ならばわざわざ他人を作り出して、戦わせる理由はなんなのか。

 自分たちに使える力が存在するのであれば、なぜそんな遠回りなやり方をしているのか。


 けれどその答えは、想像してたよりずっと保守的だった。


「人間の犠牲が出ないよう作り出されたのが、俺達だ。俺たちに、人権はない」

「人ではないから、犠牲にしてもいいってことか」


 この世界の人間は魔王と直接やり合うのが怖いから、他に命を作ってまで他に戦いを押し付けてるらしい。

 その恐怖自体は否定しない、が。


(道具ならいい、けれど生きてるじゃないか)


 その理屈で、私もこの世界のための道具にされたのだろうか。

 もしそうなら許せないと、とたんに腹の底が熱くなる怒りが顔を出す。

 だがそれに気付いているのかいないのか、フォルドは素知らぬ顔で話を戻した。


「だから普通の人間をエスターの友人とする訳にもいかないし、アイツも俺の監視下から出さないようにしている」

「確かに、何に利用されるか分かったものじゃないな。だが他の紋章持ちはどうしたんだ」


 なにも処刑待ちの魔女でなくても、歳の近い紋章持ちがいるならそっちの方が適任だ。

 しかしフォルドはそれもできないと、また首を振って否定する。


「それも難しいところでな、紋章持ちにも派閥があるんだ」

「なるほど、それで私が選ばれたのか」


 確かに私は紋章持ちでありながら、現状どこにも所属していない。できていない異世界人。

 ここまで聞いて、ようやく私もフォルドに助け出された理由を納得できた。


「これである程度は納得したか、お前が引き取られた理由」

「そうだな、だが私の処刑は回避できるのか?」

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