表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/75

01-01 聖女召喚、一人は魔女

 世界が変われば、幸せになれると思った。

 私じゃない私に、なれると思っていた。




「私が聖女よ、この女じゃないわ!」

「待てよ、そもそも何だよ! 聖女とか魔王だとか!」


 一緒に異世界に飛ばされた幼馴染は、混乱していた。

 この教会のような場所で目覚めてからずっと、私達は恐怖と不安に囚われている。

 例外は同じように異世界転移したはずの、自身が聖女であると名乗り出た少女だけだ。


 そんな私たちを、白い法衣を来た怪しげな男たちが取り囲んでいる。

 目が痛くなるほど白い部屋の中で、それでも床の刺すような冷たさが、これが現実だと証明している。


「ではもう一度説明を。我等は聖女様を、この世界を滅ぼす魔王を討伐していただく為に召喚しました」

(こいつら、さっきからなにを言ってるんだ……?)


 言葉は通じているはずなのに、目の前の奴らは現実味のない言葉を発し続けている。

 そもそもこいつらは何者なんだろうか、どうして自分達をこんな場所に連れてきたのだろうか。


 だがあちらも想定通りではなかったらしく、露骨に困惑した表情を浮かべていた。


「しかし本来来ていただく聖女様は、ただ一人のはず」

「勇者の座は未だ空席なので、彼が召喚されたのは分かりますが」

「勇者!? 俺が!?」


 突然話の矛先を向けられた幼馴染が、驚いて叫ぶ。

 そして少女だけが悠然とした態度のまま、口を開く。


「なら彼が勇者で、私が聖女ね」


 その言葉を聞いた人々の空気が、明らかに変わった。

 彼女は周囲の反応など気にせず、堂々と胸を張っている。

 その様子からは、明らかに自分が聖女であるという確信があるように見えた。


(そんなはずはないんだけどな)


 私は転生前からの知り合いだから、彼女の正体を知っている。

 彼女はただの一般人だ、だから少なくとも今の時点で特殊な力なんてあるはずがない。


(だからこれは嘘だろうな、お得意の)


 けれど周りの男たちは、彼女が聖女だと信じ始めている。

 証拠がないなら、後は申告を信じるしかないのだろう。


「では彼女は何者なのでしょうか」


 不意に白い法衣の一人が、眉をしかめていた私を指さす。

 その途端、周囲がざわつき始めた。

 そしてすぐに同じ服を着た、中年の男が前に出て喋り始める。


「複数人召喚は前例がない訳ではありません、前回は確か」


 男はそこで、一度言葉を切る。

 それから少し考え込むような仕草を見せ、結論を出した。


「魔女です」

(絶対に良い意味じゃない!)


 私は直感的にそう感じた、だからこそ否定しようと口を開く。

 けれど声を出す前に、男の言葉を聞いてしまった人達の反応が見えてしまった。

 その目は例外なく怯えており、化け物を見るかのような視線を私に向けている。


「世界を恨み、災厄を撒き散らし、最後には処刑された哀れな女。そうか、お前は「私はそんなことしない!」


 私は大声で叫ぶが、誰も聞き入れてはくれない。

 周りで蠢く連中は私が話すのも汚らわしいとばかりに、距離を取り始めている。


「嘘よ。だってここに連れてこられる前に、私を殺そうとしたもの」

「それ、は」


 「あれは事故だ」と言おうとしたが、後ろめたさで口を動かせない。

 だってそれを否定するのは、明確な嘘をつくことになるから。


(確かにあれは事故ではない、私は明確な殺意を持っていたから。けどあの時の私にとっては、ああするしかなかった事も事実だ)


 それに、今更あんなことを言われても困る。

 だってあれで終わりだと思っていたのに、続いてしまうだなんて思ってもみなかったのだから。


「では真偽を確認いたしましょう、ここに自白薬を」

「やめろ! くそ、離せ!」


 薬を持って近づいてくる男に対して全力で逃げようとするが、近くにいた他の男に拘束されてしまった。

 抵抗も虚しく、私は口に無理やり何かを流し込まれてしまう。


「っう、ぐ」


 その瞬間、体の中で何かが燃えるような感覚が襲ってきた。

 熱い、痛い。体内の末端まで駆け抜けるような熱さと痛みが、全身を襲う。


「飲みましたね。ではもう一度問いましょう、あなたは聖女様を殺そうとしましたか?」


 違うと否定したいのに声が出なかった、代わりに出たのは言葉ではなく涙だった。

 嘘だと言いたいのに言えない、心とは真逆の反応を示す体に恐怖する。


 そんな私を見て満足したのか、人々は笑みを浮かべていた。


「……はい、そうです」


 そして口が勝手に動く、自分の意思とは関係なく言葉が出てくる。

 吐き出した言葉が真実であることは誰より一番、私が分かっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ