「ランドセルに憧れた少女の話 ~メアリの願い~ 」
❀『第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
白い世界で、正確にはあたたかな壁紙ではあったけれど私の目にはその色が焼き付いていた。
赤い、ランドセル。
赤い、色。
「ママ、あの日本人の子どもたちが背負っている四角い物は何?」
ベッドからテレビをぼんやりと見ていた私は、その映った奇怪な物に釘付けだった。
ちょうど日本の子どもについて特集していた番組だった。
「ああ、あれは日本の子どもの通学鞄、“ランドセル”という物らしいわよ」
ママは着替えを引き出しに詰めていた手を止めて答えてくれた。
「ランドセル……」
私は目を輝かせた。
何だか、あれカッコイイじゃない!
日本の子どもって超クール!
そう思ったからだ。
俄然私が日本という国に興味を持ったきっかけだった。
まずは日本のアニメにハマった。
文化にも憧れた。
そして何より私はランドセルが気になっていた。
調べてみると、ランドセルは小学生でしか使わないという。
私が見たテレビでは女の子は皆赤色のランドセルを背負っていたが、今ではそんな決まりはないらしい。
カラフルなランドセルが流行りだという。
ピンクに水色に茶色に、本当に何でもありなんだろう。
クリスマスの日、私がサンタさんにお願いしたのはランドセルだった。
赤い色のランドセル。
両親は海外の国から苦労して取り寄せてくれた。
包装された箱からランドセルが出てきた時、私は静かにしなければいけないロビーで歓声を上げてしまったくらい嬉しかった。
パジャマ姿ではあったが、ランドセルを背負った私は笑顔で写真に写っていた。
枕元に大事に大事にランドセルを飾る私を見て、両親は何故だか泣いていた。
「あのね、ママ、パパ。私このランドセルを背負って日本の学校に行くの。それが夢よ」
「ええ、叶うわよ」
「ああ叶うとも。メアリは来年小学校に行くんだもんな」
抱きしめてくれる両親の目からは涙が止まらなかった。
ある日。
メアリは夢を見た。
日本の小学校で、日本の友達と笑顔で駆けっこをしている夢だ。
赤い色のランドセルを背負って、元気に走っている。
給食と言うのも楽しみだった。
メアリは数を数えるのが得意だから、算数はきっと一番に違いない。
日本語だって、絵本などで覚えた。
だから、きっと大丈夫。
友達だって、百人作るのだ。
ああ、楽しみだなー。
メアリの体は何だかとても軽かった。
今なら空だって飛べそうだ。
「メアリ、頑張れ」
「メアリ……」
メアリの手を握って両親は呟く。
メアリは、病院で闘病する今必死で戦っていた女の子だった。
今、どこかで、こういう少女が居たと信じて……。
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