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第9話 二人で作る朝ごはん2

 シャカシャカシャカッ。ジャアッ。水に浸けたお米に手をつけ、丁寧に洗う。そんな幽霊の様子を眺めながら、太一は心の中で


(絵になるなぁ……)


 そう、呟いていた。


 言うなればお母さんのお手伝いをする子供……いや、親想いの優しい少女か。耳に髪をかけ、冷たいはずの水の中に手を入れて真剣そうにお米を洗っている姿は、とても様になっていたのだ。


「っ、しょ……んっ、しょっ……」


「……」


 そして何より────可愛い。水の冷たさでたまに身体を震わせていても、決して洗うことは止めはしない。真面目さと子供らしさが混じり合い、太一を釘付けにする。


「上手ですよ、幽霊さん。多分そろそろ大丈夫だと思うので、そのまま炊いちゃってください。やり方分かりますかね?」


「はい。太一さんが炊いているのを何度か見たことがあるので、見様見真似ですが。……って、相変わらず上手いですね、ジャガイモの皮剥くの」


「まあ、慣れですかね。幽霊さんも練習すれば出来るようになりますよ」


 太一自身、これからは幽霊の食事を全て自分の手で作ってあげたいとは思っている。しかし大学で家を開けている時間がある上に、幽霊は恐らくそこまで全てを任せっきりにするのを望まないであろうことを、分かっていた。


 甘やかし過ぎは厳禁。幽霊にも自分で出来ることを増やしてもらい、その達成感を味わってもらわなければならない。少なくとも彼女には、自分の手でも何かをしたいという意志が確かにあるのだから。


「でしたらぜひ教えてください! 私も一度、その機械を使ってみたかったんですよ!」


「ええ、勿論。あとこれはピーラーって言うんですよ」


「し、知ってますよそれくらい!」


 適量の水、お米を炊飯器に入れ、スイッチを押しながらそう反論する幽霊の頰は、ほんのり赤い。


「可愛いですね、ほんと」


「う、うるさいですよ……! いいから早く使い方教えてくださいっ!!」


「はいはいっ」


 思わずその小さな頭をヨシヨシしそうになる衝動を必死に抑えながら、太一はピーラーを手渡した。


「ケガしてほしくないので、ちゃんと使い方聞いてからにしてくださいね。聞いた後でも、しばらくの間は俺の前以外で使うのは禁止ですから」


「……むぅ、分かりました。早く一人で使えるようになるため、練習を重ねないとですね」


 大学生の太一は、高確率で昼には家にいない。のでちゃんとした昼ご飯を幽霊が食べるためには、自らの手で用意しなければならない。


 毎朝、今日のような時間に起床できるのであれば朝のうちに昼の分の作り置きも残しておくところなのだが、そこまで出来る自信が太一には無いわけで。毎朝遅刻ギリギリなせいで授業すら遅刻しそうになっている奴が、朝から二食分の料理をする時間などあるはずがないのである。


「まあ気長にいきましょう。幽霊さんにも料理のことは覚えておいて欲しいですが、やっぱりすぐにとはいきませんからね。俺が大学行く前に早起きして昼ご飯の作り置きもしておきますよ」


「早起き? 太一さんが?」


「何か?」


「いや、その……出来るんですか?」


「……」


 太一は言葉を詰まらせ、ゆっくりと視線を逸らした。これまで目覚ましをどれだけかけても起きれなかった姿を、幽霊は幾度となく見ている。そんな相手に言われて、何も言い返せる言葉は無かった。


「はぁ、仕方ありませんね。貰ってばかりというわけにはいきませんから、起こすくらいはしますよ」


「本当ですか!? これ、もしかして目覚めのキスとか────」


「ある訳がないでしょう!? 起きない場合は暴力です!!」


「そんなっ!?」


 実は彼女、これまで何度も太一のことを起こしたことのある実力者なのである。


 自分の存在がバレてしまうリスクを冒しながらも、時には物を投げつけ、時には肩を揺さぶり。太一はもう既に何回も、その行いに助けられて遅刻を免れていた。……当然本人は、知る由もないが。


「全く、手間のかかる人なんですから……」


「え? なんて言いました?」


「どうやって起こしてやろうか、と言ったんですよ」


「ひえっ!!」


「平和的に起こしてもらいたければ、早く寝ることですね」


 ふっふっふ、と不敵な笑みを浮かべる幽霊と、それを見て震える太一。そうこうしている間にお米が炊きあがり、その音を聞いて少し急ぎ気味にピーラーの使い方を教えて、目玉焼きを作りながら手こずっている幽霊の様子を伺いながら朝ご飯を徐々に完成させていく。



 そして幽霊の手によって細々とした姿に変えられてしまったジャガイモを切り、豆腐やお揚げ、ワカメなどと一緒に鍋に入れて二人で混ぜ混ぜを続けて。ようやく完成した朝ご飯を全てお皿やお椀に入れて、食卓を囲んだ。

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