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57話 幽霊さんと想いの正体1

57話 幽霊さんと想いの正体1



 それからの時間は、あっという間だった。タイピングで文字を打ち、グラフをサイズ感なんかをちゃんと見ながら合わせて、貼り付けて。画面に映す資料の方を優先して作成し終え、共通資料の追加文章を目にも止まらぬ速さで打ち込み続けた。


 その結果


「くっ、あぁ……終わったぁぁ!!」


 午前一時半。作業を始めてわずか二時間にして、すみれは資料を全て完成させた。


「流石は私だ。この量をたったの二時間とは。これで明日のプレゼンテーションの準備はもう完璧だな」


 すみれが優れている点は、要領の良さや行動力の高さだけではない。その記憶力もまた、「天才」と称するに値するものを持っている。


 事実、ドーピングに頼り超速で打ち込んだ文章の内容の九割以上は、一言一句違わずとはいかずともそれに遜色ないレベルに脳内に記憶されていた。


 別で既に完成済みのプレゼン用台本の内容を完璧に暗記しつつ、配った資料の内容も全て頭に入れる。そうすることでどんな質問にも柔軟に受け答えをし、最終的に取引先を満足させることに直結するのだ。


「さて……もう一時半、か。結局幽霊ちゃんはどう────」


 ガタリ。眼鏡をとって少し水を飲もうとすみれが立ち上がったその時。背後から、小さな物音が鳴る。その方向に目をやると、そこでは閉じた扉の隙間からクリッとした綺麗な瞳が、こちらを見つめていた。


「あ、あの……すみません。来ちゃいました」


「いやいや、謝ることはないぞ。というか謝るのは私の方だ。すまないな、待たせてしまって」


「ま、待ってなんていませんよ!」


「本当は?」


「…………三十分くらい、見てました」


 すみれは、少し恥ずかしくなった。だらしない普段の姿を見られるよりも、幽霊相手だとむしろ仕事モードの自分を見られる方が羞恥心を覚える。それも、眼鏡をかけて視線に気づかないくらい本気モードだったから尚更だ。


「……はぁ。ま、とりあえずこっちに来てくれ幽霊ちゃん。ほら、座って座って」


「は、はい。ではお言葉に甘えて……」


 お言葉に甘えるも何も、ここは自分の家だろうに。そう思いながらも、どこか律儀なところに太一の面影を感じる。案外この二人は似た者同士だからこそ、こうして今喧嘩もせず仲良くできているのだろうか。


 コップに水を二杯入れ、向かいに座った幽霊と自分の前に一個ずつ。すみれはそれらを置いてから、椅子に腰掛けた。


「私の仕事姿、どうだった? 眼鏡、全然似合ってないだろう」


「そ、そんな事ないです! 真剣な顔をしているすみれさんの眼鏡姿はとてもかっこよくて……。つい、見惚れてしまっていました」


「む、お世辞がうまいな」


「お世辞じゃないですっ! すみれさんは本当に大人っぽくてカッコいい、それでいて美人さんで女の子な一面もある最高のお姉さんで────」


「よしごめん、私が悪かった。それくらいにしてくれ」


「むぐっ」


 幽霊がお世辞を言わないことくらい、初めから分かっていた。それでもつい照れ隠しで出た言葉で更なる褒め地獄が始まったので、すみれはそれを口を塞ぐことで無理やり止める。


 というより、そんな無駄話をするために幽霊はここに来たわけではないのだ。自分から話を振っておいて何だが、あまり話を発展させるわけにはいかなかった。


「さて、もう本題に入ってしまおう。幽霊ちゃんがここに来た理由は私に相談があるから、でいいんだよな?」


 幽霊は、無言で頷く。そして口に水を少量含み、飲み込んで。口を開いた。




「私は……私が太一さんに抱いている想いの正体について、知りたいんです」

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